学校のアンガーマネジメント―イライラする生徒にイライラしない方法
事例6 怒りの言動が多岐に及ぶ中学校3年生の学級
中学校3年生を担任しました。この1年間で大声を出してキレる生徒、4月に言われた言葉で自信を失っている生徒、教室に入るなり掲示物に文句を言う生徒、机をたたく生徒、ドアを蹴る生徒などを見て、自分がイライラして生徒に不機嫌に当たっていました。怒りの感情は他者への影響が大きいと身をもって感じました。怒りの感情は、どのように扱えば良かったのでしょうか。
子どもはなぜ“キレる”のか 問題となる4つの怒り
怒りの感情は捉えどころがない感じがします。何となくイライラ、モヤモヤしていると理解しがちです。アンガーマネジメントでは、怒ることはかまわないのですが、以下の「問題となる4つの怒り」のどれか1つでも当てはまると問題があります。 ・強度が高い(小さなことでも激昂する) ・持続性がある(昔のことを思い出して怒る) ・頻度が高い(イライラすることが多い) ・攻撃性がある(人や自分を傷つける、モノを壊す) 「強度」「持続性」「頻度」「攻撃性(人、自分、モノ)」というキーワードを覚えてください。アンガーマネジメントは自分の怒りの特徴を理解し、認識することが基本ですが、自己理解が深まると生徒の怒りの特徴にも気付けるようになります。 また、誰かに怒りをぶつけられると、さらに他の誰かにぶつけたくなります。生徒から担任へ、担任から他の生徒へ、その生徒から別の生徒へと限りなく怒りが連鎖してしまいます。怒りの言動が横行する学級はもはや安心安全な場ではなく、学習もままなりません。生徒たちそれぞれが苦悩していたのではないかと推察されます。
アンガーマネジメントを取り入れた対応 怒りの連鎖を断ち切ろう
これまでアンガーマネジメントの理論と方法を考えてきました。怒りを感じたら衝動のコントロール「6秒」、思考のコントロール「三重丸」、行動のコントロール「分かれ道」の順に取り組みます。特に、衝動をコントロールすることが大事です。 どんなに怒りを感じても考えなしに何かをしてはいけません。反射せずに理性が働くまで6秒待つことです。攻撃性が人や自分、モノに向かってしまってはコミュニケーションをとることができません。 また、自分の「怒り方の特徴」に応じ、アンガーマネジメントのテクニックを利用してください。 強度が高い➡怒りに点数をつけて客観視する「怒りの温度計」(12月号参照)に取り組む。 持続性がある➡目の前に見えている物を観察して、“ 今” に意識を集中する「グラウンディング」に取り組む。 頻度が高い➡マイナスの感情をためないよう気分転換を図る「リラックスメニュー」に取り組む。 生徒の怒りに反射せず、先生が生徒に何をどうしてほしいのか、リクエストを言葉にして伝えるように努力してください。 一般社団法人日本アンガーマネジメント協会の理念「怒りの連鎖を断ち切ろう」のもと、「お互いの人権を尊重し、あらゆるハラスメント、差別のない社会のためにアンガーマネジメントを人と人を繋ぐ共通言語として提案をしていきます」。先生方に一番お伝えしたいことです。 本連載をとおして、次世代を担う生徒を教え導く先生方がアンガーマネジメントができれば、差別のない社会の実現が可能になると期待しています。4月号以降も、さらにアンガーマネジメントが上達できるように解説いたします。 *日本アンガーマネジメント協会には子どもたちの年齢に応じてアンガーマネジメントを伝えられる認定資格があります。詳しくは、一般社団法人日本アンガーマネジメント協会のHPをご覧ください。 川上 淳子 一般社団法人日本アンガーマネジメント協会認定アンガーマネジメントシニアファシリテーター。Edu Support Offifice代表。元宮城県公立小学校教諭。元国立大学法人宮城教育大学非常勤講師。 *『月刊教員養成セミナー2023年3月号』 コロナ禍を経て、なお先行きが見えない今、教室を安心安全な居場所とする働きかけが急務です。アンガーマネジメントの理論と方法は、児童同士、児童と担任を繋ぎ、よりよい関係づくりに活かすことができます。場面指導でも問われるケースを解説します!