新法はフリーランスをどこまで守れるか:問われる新しい働き方の「労働者性」
橋本 陽子
フリーランス新法が2024年11月1日、施行される。同法は、取引の相手方である発注者からフリーランスを保護することを目的としている。国際的に見て日本独自の立法をどのように評価すべきか。労働法研究の第一人者が解説する。
フリーランスとは、2021年の公正取引委員会、厚生労働省などのガイドラインで「実店舗がなく、雇人もいない自営業主や一人社長であって、自身の経験や知識、スキルを活用して収入を得る者」と定義されている。この定義は「フリーランス新法」(「特定受託事業者の取引条件の適正化等に関する法律」)の適用対象者である「特定受託事業者」の定義でも踏襲されている。 22年の就業構造基本調査(総務省)では、初めて、この定義によるフリーランスの人数も調査された。それによれば、本業としてフリーランスとして働く人は209万人で、全体に占める割合は3.1%、副業としてフリーランスで働くのは48万人だった。
下請法を基にしたフリーランス保護
新法では、フリーランスの契約条件を保護するため、下請法(「下請代金支払遅延等防止法」)と同様の規定が定められた。つまり、フリーランスはガイドラインと同様に、法律上も「自営業主」とみなされている。 新法によると、契約条件を明確に定めた書面の交付義務のほか、1カ月以上の期間の業務委託について、報酬の支払い遅延や著しく低い報酬を定める「買いたたき」などの行為が禁止されることになった。下請法は、発注者が資本金1000万円以上でないと適用されず、フリーランスの相手方となる発注者の約4割が資本金1000万円以下であるため(内閣官房「新しい資本主義実現本部」事務局資料、2022年4月)、新法によって、労働者に近い働き方をしているフリーランスの保護が拡大されることになった。 また、ハラスメントの相談体制の整備や育児や介護中のフリーランスに対する発注者の配慮義務なども定められた。1年以上の継続的業務委託においては30日以上の解約予告義務も定められた。同法の監督には、取引条件の保護については公取委、労働法上の保護については労働局が関わることとなった。 <フリーランス新法の骨子> ・契約条件を定めた書面交付する義務 ・著しく低い報酬や支払い遅延など「買いたたき」禁止 ・ハラスメント相談体制の整備 ・育児・介護中に配慮する義務 ・30日以上の解約予告義務 新法制定に至った背景として、1956年に制定された下請法の存在が大きい。下請企業と相手方との間の取引条件を規制する下請法は、独禁法における優越的地位の濫用規制の特別法であり、社会政策的な機能を持つ法律である。 欧米では、優越的地位の濫用規制は、市場支配的な地位の濫用を規制するのに対し、日本では、特定の取引関係における優越を問題にしている点で、欧米とはやや異なる。このように、日本独特の経済法である下請法を前提として、フリーランス新法ではフリーランスの保護のために、下請法の規制を拡大するという方策が取られた。