新法はフリーランスをどこまで守れるか:問われる新しい働き方の「労働者性」
ギグワーカーの労働者性を認めたEU
欧米では、約10年前からアプリを通じて、単発の仕事を請け負う就労者の労働者性が大きな問題となってきた。音楽家が集まって単発のセッションを行うことを意味する「ギグ」という言葉から来ている。 欧米では、ウーバーなどの自家用車を用いたタクシー(ライドシェア)の運転手やフードデリバリーの配達員がギグワークの典型である。日本でも、ウーバーイーツの配達員は身近な存在になっている。ギグワーカーは、プラットフォーマーが開発したアプリを通じて、仕事のオファーを受けるので、プラットフォーム就労者とも呼ばれている。 ギグワーカーは、労働法の適用される労働者ではなく、自営業者として扱われていたため、欧米では、ギグワーカーの労働者性が大きな問題となった。 日本が、経済法と労働法の両方の性格を持つ特別法によって、ギグワーカーを含むフリーランスを保護する方向性を取ったのに対して、欧州連合(EU)では、各国の最上級審において、2020年前後に、ライドシェアの運転手やフードデリバリーの配達員の労働者性が相次いで認められていた。 24年3月に採択が決定したプラットフォーム労働指令によって、ギグワーカーの「労働者性」を認め、労働法の規制を適用する方向性が明らかとなった。具体的には、ギグワーカーの労働者性を推定する規定を設ける義務が各国に課されることとなった。 このように欧州では労働者性を広く認めることで、ギグワーカーの保護を実現しようとしている。
労働者性を棚上げした立法
日本では、ライドシェアが2024年4月に限定的に解禁された。運転手は、既存のタクシー会社に雇用されることになっており、慎重に導入が進められている。 また、アマゾンの配送運転手については、労働局が下請の運送会社と業務委託契約を締結していた運転手の労働者性を肯定し、労災の適用を認めた(読売新聞2023年11月29日)。その結果、アマゾンは、現在、孫請を廃止するとともに、1次下請に対し、運転手を雇用するよう要請するようになっているようである。 労働者性の見直しが進むことは望ましい。ただ、新法は労働者性を十分に問わないまま、フリーランスの保護を先に進めてしまったことで、問題を残している。 例えば、労災保険の扱いである。新法の制定と並行して、フリーランスには自ら保険料を支払うことで保険適用される「特別加入」が認められたが、労働者であれば、保険料は使用者が支払うことになっている。仮にフリーランスにも労働者性が認められるのであれば、保険料を自ら負担する必要はないはずだ。 フリーランス新法の制定に当たり、本来は労働者性を広く解釈することで、フリーランスを保護することも検討すべきだった。だが、労働者性は「難問」なため、棚上げしたまま、下請法とともに、一部の労働法の規制をフリーランスに適用することになった。その後、労働者性を見直すのであれば、施策の整合性が問われることになるのではないか。
【Profile】
橋本 陽子 学習院大学法学部教授。1994年東京大学法学部卒業、97年東京大学法学政治学研究科修士課程修了。同助手を経て、2000年に学習院大学法学部助教授、06年から現職。主な著作に、『労働者の基本概念―労働者性の判断要素と判断方法―』(弘文堂、2021年)がある。