アニメ『ブルーロック』の“作画”について考察 日本式リミテッドアニメーションの可能性
『ブルーロック』作画の可能性
以上のように、『ブルーロック』の紙芝居/パワポ作画もまた、戦後日本のテレビアニメの伝統的な作画スタイルの系譜を考慮に入れると、また違った楽しみ方が可能になるだろう。 例えば、授業などで最近の学生に「日本のアニメに見られる特徴は?」と訊ねると、一定数が「海外のアニメと違って、日本のアニメは実写のようなリアルな作画でキラキラしている」と答える。おそらく新海誠や京都アニメーションなどの作画が想定されているのだろうが、そうした絵柄の浸透も、せいぜいここ15年ほどのことにすぎない。今のZ世代からは、それ以前のリミテッドアニメ由来の日本のアニメの表現や演出が急速に忘却されているように思われる。そうした中で、まさに「紙芝居」「パワポ」とネタ的に形容される『ブルーロック』は、かつての日本アニメのユニークでハイブリッドな映像表現の歴史性やそれにまつわるリテラシーを意識化させてくれるだろう。 あるいは、『ブルーロック』のような映像表現もまた、現代の最先端の映像文化へと接続可能な要素を含んでいるかもしれない。『劇場版アイドリッシュセブン LIVE 4bit BEYOND THE PERiOD』(2023)などのアイドルアニメで使われたような、モーションキャプチャと3DCG、バーチャルカメラで創出される昨今のアニメキャラクターのイメージは、すでにしばしば言われるように現代のVTuberのキャラクターとも接近している。しかし、一方で『ブルーロック』にも見られるような、日本式リミテッドの基本要素である動きの抑制(止め絵)や声(台詞)の比重の高さは、以前、映画研究者の北村匡平が指摘したように、やはり「にじさんじ」所属の月ノ美兎に代表される2DVTuberのイメージと近い(「デジタルメディア時代の有名性」、『ポストメディア・セオリーズ』所収)。そう考えると、リミテッドアニメ固有の特徴を示す『ブルーロック』も、現代の混淆する映像文化やアニメの状況の中で、面白い考察が可能な位置を占めているかもしれない。 盛り上がるスポーツアニメの中で、2024年のユニークな成果として、パワポ化する『ブルーロック』の映像表現を捉えることもできるだろう。
渡邉大輔