『モンスター』“カンテレ史上最年少プロデューサー”に聞く、異色キャラが生まれた背景
加藤Pが『春になったら』『エルピス』などのカンテレ作品で学んだこと
■「今後やっていきたいのはオリジナル作品」 ――作品の方向性について、脚本家の橋部敦子さんとどんなことをお話されましたか? 加藤:各話のモンスターはなんだろう、ということは話し合っていました。亮子がどんな言葉を発するかが見どころになっているので、依頼人や裁判の相手、世の中へのメッセージを入れていきましょうと。 ――各話で特定の「モンスター」がいるのでしょうか? 加藤:はい。こちらで想定していますが、それが絶対正解かと聞かれたら、たぶん違うと思います。視聴者の皆さんが考える各話のモンスターも正解かもしれないですし。自分たちの共通認識はありますが、モンスターは1人とは限らなくて集団のこともあるし、空気という場合もあって、人間に限った話ではないのかなと思います。 ――亮子と父親の粒来にもモンスター的な側面があると思いました。 加藤:もちろん彼らもそうですし、誰もがモンスターになりうることが前提にあります。企画段階で、橋部さんは、亮子自身はモンスターの面もあるけど、どちらかと言えばモンスター使いで、モンスターたちを別視点から見ている人とおっしゃっていましたね。 ――その中で唯一、杉浦はモンスターではなく人間の側でしょうか。 加藤:そうかもしれないです(笑)。杉浦は純朴なので。でも、杉浦もどうなるかわかりません。 ――加藤さんは、これまで『エルピス-希望、あるいは災い-』(カンテレ・フジテレビ系)、『罠の戦争』(カンテレ・フジテレビ系)などの作品で、プロデューサーを支えてこられました。これまで関わった作品からどんなことを学びましたか? 加藤:一つひとつの作品がそれぞれ全然違うんですけど、最近では『春になったら』(カンテレ・フジテレビ系)のときに、主演の役者さんが現場の空気を作る、ということを感じました。すごく良い現場だったんですよ。俳優部もスタッフも、良いものを作ろうという目的のために邁進していて、前に進むためにどうしたらいいかというところで、皆が悩みながら楽しんで取り組んでいる現場でした。その中心にいるのは、やっぱり主演俳優なんだと感じました。『春になったら』は先輩の岡光寛子のプロデュース作品でしたが、主演の役者さんに不安が一切ない状態で演じてもらえる空間や作品の土台を作り上げることが、プロデューサーに必須の能力だと感じます。『エルピス』ではスタッフのプロフェッショナリズムを感じました。佐野亜裕美プロデューサーは、脚本の渡辺あやさんのところにずっと通って台本を作っていました。良い作品にするために労力を一切惜しまない姿勢や、大根仁監督のチームも、作品の向こう側にいる視聴者に何を届けるかを念頭に置いて取り組んでおられて、プロの集中力を感じました。 ――いま挙げていただいた『春になったら』や『エルピス』もそうですが、カンテレ制作のドラマは、プロデューサー自身の作家性が作品の底に流れていると感じます。加藤さんの好きな作風やテーマはありますか? 加藤:会話劇が面白い作品が好きです。『古畑任三郎』(フジテレビ系)シリーズが好きで、FODで何度も観返しています。寝るときはいつも『古畑任三郎』を流しながら寝落ちしているんですが、何回も観ているうちにラジオ感覚というか、目をつぶっても映像が浮かぶようになりました。プロデューサーとして脚本家の先生と台本を作っていくのですが、劇中で説明しなくてはならない事項が多くあります。弁護士ドラマは特にそうですけど、盛り込む要素が多くて、どんどん尺が長くなっていきますし、一言で理解してもらうのは難しいと感じています。その苦労を経験したこともあって、他の作品でも、キャラクターが置かれた状況と関係性を一言で理解できる台詞があると「なんてお得な台詞なんだ」と感動します。そういうスマートで面白い作品は好きです。現実と地続きの世界を描いている作品で、台詞の妙で盛り上がりを作っているとすごく惹かれます。そんな作品を作れたらいいなと思います。 ――『モンスター』で法律の専門的な話をうまくまとめて、次のシーンにテンポよく切り替わるのはすごいと思いました。 加藤:本当に難しかったですね。「これを入れないと法律的におかしい」とか「この要素がないと視聴者に伝わらない」というものを加えていくと、それだけ冗長になってしまうので、橋部さんと一緒に悩みました。監督がテンポ感のある映像にしてくださって、それらの積み重ねで結果的に観やすくなっているのだとと思います。 ――カンテレでは、女性のプロデューサーが活躍していますが、加藤さんはどんな作品をこれからプロデュースしたいですか? 加藤:プロデューサーにかかわらず、ドラマやバラエティー番組でもスタッフに女性が多くなっていると感じます。いろいろな面で強い人が生き残る世界な気がしているので、そういったところで女性人口が男性に匹敵する世界になってきている印象がありますね。今後やっていきたいことはオリジナル作品です。オリジナルを生み出すとなると、やっぱり自分の中からしか出てこないので、必然的に女性の主人公や、自分が理解できる対象になると思います。女性びいきしたいわけではなくて、結果的に女性寄りになるのは、単純に自分が一番理解できて考えやすいからですね。同性の友達の悩みを聞いて新たな発見があったり、ヒントになることもあります。 ――『モンスター』はジャンルとしてはリーガルドラマだと思いますが、法律を扱った作品はいかがですか? 加藤:先日、司法試験に最年少で合格した合格者の方と対談をさせていただいたのですが、その時に、法律はすごく面白いものという話を聞いて、私も勉強してみようかなと思いました。人間が作り出したルールを学ぶのは面白そうだし、ぜひやってみたいですね。
石河コウヘイ