フランス語を話せない柴咲コウがフランス語での映画主演を決断した理由
NHK大河ドラマ『おんな城主 直虎』で主演を務め、その凛とした姿で観る者を圧倒した柴咲コウさん。以降も数々の映画・ドラマに出演する一方で、2022年には初映画監督作品が公開に。2023年12月にはアーティストとして全国ツアーを成功させるなど、多岐にわたる活躍で多くの人を魅了し続けている。 【写真】柴咲コウさん、麗しい姿を連続写真で 彼女の最新作となったのは、黒沢清監督の映画『蛇の道』。黒沢監督が1998年に公開した作品を、フランスの制作会社のラブコールにより、セルフリメイクしたものとなる。 何者かによって娘を殺され、復讐に燃える男、アルベール・バシュレ(ダミアン・ボナール)。彼と偶然出会い、復讐に協力するパリ在住の心療内科医・新島小夜子(柴咲コウ)。娘を殺したのは誰なのか? なぜ小夜子は、献身的なまでにアルベールに協力するのか? 徐々に真相が明らかになっていくなかで、復讐劇は思いもよらぬ結末を迎えるーー。 映画のロケ地はフランス。主演を務めた『レ・ミゼラブル』がカンヌ映画祭で審査員賞を受賞、フランスで高く評価されている俳優、ダミアン・ボナールをはじめ、現地の制作陣と挑んだ創作活動はどのようなものだったのか。インタビュー前編では、オファーを受けた理由、フランス語という壁との対峙、そして小夜子として過ごした時間について詳しく聞いていく。
『余白』を大切にしているものづくりを私も味わってみたい
出演をオファーされた際、「なぜ私なのだろう? フランス語も話せないのに?」と思ったという柴咲さん。それでも受けることを決めた理由には、「黒沢監督と仕事をしたかった」「フランスやフランス語に深く触れてみたかった」というふたつの思いがあったという。 「黒沢監督の作品には以前より、『これが言いたかったんです』と明快にしていない部分、観客に判断をゆだねられる部分があるという印象を抱いていました。それゆえに観ている側は『あれはこうだったんじゃないか? 』『いや、こうかもしれない』と、勝手に思いを増幅させてしまうんですよね。 そういった『余白』的なものを大切にされている方のものづくりを、ぜひ私も味わってみたいーー。そう思ったのが、今回『蛇の道』のオファーをお引き受けした理由です。そこには『監督はどんなふうに映画を撮られているのだろう? 』という好奇心もありました。 もともと私は、メジャーコードよりマイナーコード、だけどリズミカルな曲が好きな人間です。さらに言うと、湿度を感じる作品が好きと言いますか。今回の『蛇の道』がまさにということで、その世界観の作品に出られることが嬉しい、という気持ちがありました。 セリフはほぼフランス語。当然ながら、ハードルとしては非常に高いものでした。ただ逆にこれが日本語だったら、今ほどの達成感、充実感を得られていなかったのでは、という気も。ハードルが高いからこそ燃えるというのは確実にあって、私にとっては魅力のひとつになっていました。 以前『昔やったあの作品、また集結してやろうって提案してみようよ』と話していた役者さんがいらしたんですが、同時に『でも自分の出番は少なくしてほしい』と言っていたんですね(笑)。今回の私がまさしくそうで、『フランスが舞台!? かっこいいじゃん! 』『パリに住んで10年以上の自立した女性を演じられるって素敵じゃない!? 』とワクワクする一方で、『いや、それやるの私だ。できるのか? 』といった不安がどんどん大きくなって。その不安から脱するために、ひたすらフランス語の勉強をしていました」