「線路転落」視覚障害者の3割以上が経験 障がいがある人もない人も安心して暮らせる社会に
広島ニュースTSS
目が不自由な視覚障害者人のうち白い杖を使用しているのは広島市だけでも600人以上いると言われています。 視覚障がいのある人たちが本当に安心して暮らせる社会とは何なのか。一人の男性の姿を通して見つめました。 ≪杖の音≫ いつも通りの朝を迎えた住宅街に聞きなれない音が…(杖が地面に触れる音) 仲前暢之さん。23歳の時、緑内障が原因で光を、失いました。 仕事へ向かうため地面を杖でなぞるように道を探ります。 ときおり歩道にはみ出した車にぶつかりそうになります。 進んだ先に歩道が途切れていることも。 音の出る信号機がない交差点も耳を頼りに渡ります。 【視覚障がいがある 仲前暢之さん】 「車の動きを音で聞いて、同じ方向に車が動いていたら、信号が青だなという感じで、音を頼りに渡っています」 ≪電柱にぶつかりそうになる≫ 健常者が5分で歩ける道のりも、2倍以上の時間がかかります。悪戦苦闘の日々が、もう何十年も続いています。 広島市中心部、八丁堀。取り出したのはスマートフォンです。 【仲前暢之さん】 「スマホでアプリがあって」 バスの行き先や到着を知らせる音声を確認します。 【仲前暢之さん】 「このバス停は行き先がいろいろあるので、間違えたら保健所(職場)に行けない」 バスの停車位置がずれると乗車口がわからなくなります。 【仲前暢之さん】 「道の真ん中を歩くと、どこにいるかわからないので、端っこを歩くんですけど、電柱があると電柱にぶつかったりとか、音の出る信号機があっても、横断歩道を渡るのが一番緊張します」 ≪バスを降りる≫ これが仲前さんにとって日常の通勤風景です。 そんな仲前さんには忘れられない出来事があります。 16年前、JR前空駅で視覚障がいがある男性が線路に転落。 ホームに上がり切れず電車と接触して亡くなりました。 先週末、県内初となる視覚障害者が線路上を歩く訓練に参加する仲前さんの姿がありました。 【仲前暢之さん】 「僕の(盲学校の)同級生が前空駅で転落して、ちょうど上がるところでひかれてしまったショックで…」 線路に転落したらどうすればいいのか。 【仲前暢之さん】 「これがホーム…高さどれくらい?胸?下(のスペース)はない」 【ヘルパー】 「壁です。入れない。(人が)入るところはないんですね」 【JRの職員】 「駅によってはあるんですけど、西広島駅はないですね」 【仲前暢之さん】 「もし転落したら…」 【JRの職員】 「助けを呼んでいただくか」 【仲前暢之さん】 「あっちに逃げれる?」 【ヘルパー】 「どっちから電車が来ているかわからない」 【仲前暢之さん】 「無理じゃね…とにかく声出して、周りの人に非常ボタン押してもらうか」 ホームから転落した経験を持つ人も… 【20年前にホームから転落した 本木里美さん】 「遠足かなにかで(ホームに)子供がたくさんいらっしゃって、よけて歩こうとしていたら落ちた。駅は人が多いところはとても怖いですね。見えない人も歩いているということを知っていただいたり、白い杖の人を見たら、ちょっと気を付けていただけるとありがたい」 「行きたい場所へ自由に移動する」私たちにとって当たり前なことに不安を抱える人がいます。 光を失う前、IT関係の仕事をしていた仲前さん。 今はスマホやパソコンの使い方を視覚障害者に教えるスタッフをまとめています。 【仲前暢之さん】 「利用者さんがどういうことを教えてもらいたいか、行動計画を立てたりとか、ボランティアさんの派遣の調整をしています。全盲で目が見えないと事務仕事とかデスクワークの仕事はなかなかないんで、こういう仕事につけるというのは、やりがいがあるなと思っています」 【広島市視覚障害者福祉協会・保田かおりさん】 「とてもパソコンとかiPhoneに詳しいので、助けてもらいながら、教えていただきながらやっています」 通勤に不安はある。でも、この仕事は仲前さんにとって生きていくために大切なことなんです。 前を向いて歩く仲前さんを支えているのは白い杖だけでなく、行く先々で出会ってきた見ず知らずの人たちです。 【仲前暢之さん】 「けっこうみなさん声をかけてくれるので、助かっています。見えていたときは人の優しさとかを感じていなかったところもあるけど、見えなくなったら、いろいろ声をかけてくれて人は優しいなという気持ちになれる」 休日、友人と会うため電車に乗る仲前さん。 【仲前暢之さん】 「行ってきます!ありがとうございます」 障がいがある人もない人も、安心して暮らせる社会とは何なのか?誰もが…ほんの少しだけ…白い杖の変わりになることはできるのかもしれません。 <スタジオ> 視覚障がいがある人にとっては外に出るというのは様々な苦労があるんですね。 こちらのグラフをご覧ください。 2021年の国交省のデータで視覚障害者の3割以上が線路に転落した経験があると答えています。 今回のJRの取り組みもありましたが企業だけでなく私たち自身が「点字ブロックに荷物を置かない」「声をかける」などできることもありそうですね。 【コメンテーター:木村文子さん】(女子100mハードル元日本代表・エディオン女子陸上部アドバイサー) 「本当に自分が経験していないことを自分事として捉えていくのは非常に難しいことだと思います。なので、まずは知ることで、自分の行動を少しでも変えていきたいなというふうに感じます」
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