この作品を見逃していない? 海外ドラマ『FARGO/ファーゴ』シーズン5は始終ザワザワしっぱなし!
『SHOGUN 将軍』のエミー賞最多ノミネートが話題だが、こちらの作品も順調にノミネートを獲得。リミテッド・シリーズ部門の作品賞、主演男優賞、主演女優賞、監督賞、脚本賞など計15ノミネートを獲得したのが、シーズン5を迎える『FARGO/ファーゴ』だ。 シーズン5を迎えるのにリミテッド・シリーズ部門? という疑問は、このドラマの構成を知る人にはスルーしてもらえるだろう。コーエン兄弟の傑作映画『ファーゴ』(1996年公開)に着想を得たドラマ『FARGO/ファーゴ』は、シーズンごとに物語も登場人物も一新されるアンソロジー形式。同じエリアの異なる時代を舞台設定に据えていたり、別シーズンの登場人物にゆかりのあるキャラクターがまれに現れたり、共通する要素もあるにはあるが、それらを見つけて悦に入るタイプのシリーズでもないので、見たいシーズンをダイレクトに見はじめるスタイルで全く問題ない。 というより、これまでの『FARGO/ファーゴ』に無縁だったからと言って、シーズン5を見過ごすのはちょっともったいない。「これは実話である。生存者に配慮し、登場人物の氏名は変えてある」のテロップ(本当は実話でもなんでもない)と共に、冒頭から人を食った調子ではじまる物語の主人公は、優しい夫や可愛い娘と暮らすドット。リッチな義理の母との関係は決して良好とは言えないが、それでも彼女の日常は平穏で満ち足りている。しかし、ある日ドットらの家に謎の2人組が侵入。どうやら、2人組の目的は彼女を連れ去ることらしい。ところが、ドットは主婦らしからぬ戦いっぷりで反撃開始。なぜドットは戦えるのか? 2人組はなぜ彼女を誘拐しようとしたのか? この出来事をきっかけに、ドットの知られざる秘密が明かされていく。 「知られざる秘密」と大仰に言いはしたが、そのあたりの事情はすぐに察しがつく。ネタバレを許せない人はここから先を読む前にドラマの世界へ直行していただきたいのだが、ドットには別の男と結婚生活を送っていた過去が。その男はとんでもないクズで、ドットは暴力的な彼のもとから逃げ、見つからないように名前も変え、新生活をはじめることにしたのだという。シーズン1のマーティン・フリーマン、シーズン2のキルスティン・ダンスト、シーズン3のユアン・マクレガーなど、スター俳優の出演も『FARGO/ファーゴ』の特徴の1つになっているが、今回のエミー賞で主演女優賞と主演男優賞にノミネートされたのはドット役のジュノー・テンプルとクズの元夫ロイを演じたジョン・ハム。何かを訴えかけるような目に厳しさとユーモアを宿しつつ、屈しない主人公を演じたジュノー・テンプルは言わずもがな、こんなにも鬱陶しく、その分だけ味わい深くもあるジョン・ハムは初めてかもしれない。候補入りこそなかったがドットの姑役のジェニファー・ジェイソン・リーやロイの息子役のジョン・キーリーも目を引き、『FARGO/ファーゴ』がすこぶる魅力的でたまにおかしな登場人物たちに支えられたシリーズであることが分かる。 シリーズ全体の構想を練り、脚本を手掛けてきたノア・ホーリーは“ドラマ界の才人”の名をほしいままにしており、シーズン5でもその手腕を大いに発揮。スリルが芋づる式に肥大したかと思えば、偶発的な“ちゃっかり”で絶妙な安堵も気まぐれに与え、笑ってはいけないのに笑える居心地の悪さへと導くストーリー展開で全10話を一気に見せる。ちなみに、過去シーズンの鑑賞は必須ではないが、映画『ファーゴ』は見ておいたほうがもっともっと楽しめるかもしれない。ついでに、同じコーエン兄弟の『ノー・カントリー』あたりも見ておくと、「おっ」と思えるかもしれない。逆に、この『FARGO/ファーゴ』のシーズン5を入口として、映画『ファーゴ』をはじめとするコーエン兄弟ワールドに足を踏み入れるのもアリだろう。そう思わせるだけのパワーと技が、このシリーズにはある。 『ファーゴ』シーズン5 製作年/2023年 監督・脚本/ノア・ホーリー 出演/ジュノー・テンプル、デイヴィッド・リズダール、ジェニファー・ジェイソン・リー、ジョン・ハム、ジョー・キーリー、ラモーネ・モリス 配信/アマゾンプライム・ビデオ
文=渡邉ひかる