薄給にモラハラ、時間外も食材手配に奔走…「家庭科」非常勤講師が語る現場のリアル
家庭科の時間に「国語や英語」を教える学校も
実際、平野さんの地域は、家庭科の十分な指導体制が整っているとは言い難い。家庭科の専任教諭がいないばかりか、非常勤講師も確保できていない中学校すらある。 「そういう学校では、英語や国語の先生が家庭科を兼任しています。兼任を打診されるのはたいてい女性です。『女性だから家事は得意でしょう』と言われることが多いと聞いています」 しかし、料理や裁縫ができることと、生徒に家庭科を教えることは別物だ。本業の英語・国語の授業準備や、校務もしなくてはならない。結果的に家庭科の授業がないがしろにされるという。 「私は公立高校の非常勤講師もしていますが、中学家庭科が未履修に近い高校生も目立ちます。ミシンを使ったことがない、調理実習を1度しかしていない、というケースも珍しくありません。中には、家庭科の時間に英語や国語の授業をしている学校もあります」 未履修をめぐっては、2006年に大きな問題となった。主に進学実績向上を重視した高校で、大学受験に関係ない教科を履修させず、単位不足となる生徒が続出。責任を感じた校長が自殺する事件も発生し、文部科学省が救済措置をとる事態にまで発展している。 こうした苦い過去があるにもかかわらず、同様のことをしてしまうのは、家庭科を軽視する傾向があるからのようだ。平野さんは次のエピソードを紹介してくれた。 「テレビのニュースで、オレオレ詐欺防止のポスターを作成する家庭科の授業が取り上げられたのですが、取材を受けた先生が『専門外なのでわからない』というニュアンスの発言をしていました。他の教科の先生が兼任していたのかもしれませんが、『消費者被害の背景とその対応』は学習指導要領にも盛り込まれているので、その発言には驚きました」 テレビで流れたにもかかわらず、その発言が問題視されなかったことも問題だろう。現場の教員が、マスメディアで「専門外」と発言し、それを咎める人もいない。たとえこれが限られた地域の話であっても、非常勤講師と掛け持ちに依存し、定められた時数をこなすだけの「教育」が行われているという現実は重い。 他方で、良質な教育環境を信じて積極的に協力してくれる人々も存在する。平野さんは、「調理実習の食材を仕入れていると、『生徒さんのためなら、いいものを提供しましょう』と頑張ってくれるお店が本当に多いんです」と語る。未来を担う子どもたちを地域ぐるみで大切にしよう、という思いは厳然としてある。その期待に応える教育が果たして実現できているのか、教員不足の今こそ見直すべきかもしれない。 (文:高橋秀和、注記のない写真:つむぎ / PIXTA) 本連載「教員のリアル」では、学校現場の経験を語っていただける方を募集しております(詳細は個別に取材させていただきます)。こちらのフォームからご記入ください。
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