【舛添直言】孤独なプーチンに手を差し出す習近平、大統領選を睨み「中国叩き」のパフォーマンスに興じるバイデン
(舛添 要一:国際政治学者) プーチン大統領は、5期目の大統領就任後の初の外遊先として中国を選んだ。中国との協力関係を強化することによって、国際的孤立状態を打破しようと意図しているようである。16日には、習近平主席と首脳会談を行い、包括的な戦略パートナーシップを強めるとの共同声明に署名し、両国の結束を誇示した。 【写真】いまやEVのトップメーカーはテスラではなく中国のBYD。写真は今年春の北京モーターショーでBYDが立ち上げたプレミアムブランド「Fang Cheng Bao」が公開したスポーツカー「Super 9」 ■ プーチン訪中の狙い プーチンには、ベロウソフ国防相、ラブロフ外相、経済担当の副首相、国営企業のトップが同行している。 アメリカ議会でウクライナ支援予算案が可決され、今後、支援が強化される中で、ロシアは戦略の見直しを行っている。 軍事的には、アメリカからウクライナへの武器供与が再開される前に、攻勢を強めることである。東北部のハルキウ州を北方から攻撃し始めている。新たな戦線を開いたのであり、次は隣接するスムイ州へも戦線を拡大する予定である。こうすることによって、ドネツク州などの戦場からウクライナ軍を分散させることを狙っている。 これに対しブリンケン米国務長官は、14日、キーウを訪れ、ウクライナへの武器支援を加速化させることを約束した。 一方、プーチンは、戦争の長期化を念頭に戦時経済体制を確立することを企図している。経済専門家のベロウソフを国防相に任命したのは、そのためである。 西側による経済制裁が強まる中で、プーチンは、中国との関係強化によって安定した戦時体制を築くことを考えている。昨年の両国の貿易額は、過去最高の2400億ドル超となっている。
■ 米国民の関心はウクライナよりもイスラエル・パレスチナ問題と中国 アメリカでは、11月の大統領選挙に向けてバイデン大統領とトランプ前大統領の対決が続いている。アメリカの有権者は、長期化しているウクライナ戦争よりもガザでのイスラエルとハマスの戦闘により関心を示している。たとえば、親パレスチナの学生の抗議活動が各地のキャンパスで続いているのもその表れだ。 別の言い方をすれば、ウウライナ戦争については、世論の分断がほとんどない。悪いのは侵略者ロシアであるということで一致している。ガザについては、ハマスのテロ行為は非難するものの、イスラエルによる報復が民間人の犠牲を増やしていることに対しては批判的な意見が強まっている。 しかしながら、生活に密着した分野では、中国との関係が大統領選挙の大きな争点となる。中国から見れば、アメリカからの風当たりが強まっている。習近平政権としては、ロシアとの協力関係を深めることによって、アメリカに対抗する力を強める狙いがある。 アメリカによる中国叩きの例としては、たとえば、TikTokの禁止がある。4月23日には、米議会は、中国の企業バイトダンスが運営するTikTokについて、アメリカでの事業を期限内に売却しなければ国内での配信を禁止することを盛り込んだ法律を可決した。翌24日に大統領が署名し法律が成立したが、売却期限は270日であり、大統領の権限で90日まで延長できる。 TikTokのアメリカでの利用者は1億7000万人にのぼる。米政府は、今回の法律は中国政府に情報が漏洩し、安全保障上の脅威となるという理由で成立させたとしているが、表現の自由を侵害するものだとの批判の声も強い。TikTok側は、5月7日に表現の自由を保障する憲法に違反するとして米政府を提訴した。