考察『光る君へ』13話 兼家(段田安則)の老いのリアルに震える、定子(高畑充希)の変顔が可愛い!未来の后ふたりが登場回
老いた父も愛おしゅうございます
彰子(森田音初)が誕生して、健やかに大きくなっている。つまり、この13話は未来の后ふたりが登場した回だ。 父・兼家の異変を伝える道長に、倫子は兼家よりも年上である自分の父・雅信(益岡徹)を思い、それは老いだと指摘した。あきらかに変だと感じるまで親の衰えに気づかないあたり、リアルである。現代でもよく聞く話だ。 「老いた父も愛おしゅうございます。お優しくしてさしあげてください」 倫子のこの台詞は、実母・穆子(むつこ/石野真子)が身近にいて、人生、生活の様々を学び取っている女としての強靭さを感じる。 そして、道長と倫子が良好な夫婦関係を営んでいることに、妙な安心感と切なさを覚える場面であった。
宣孝の派手な装束と清少納言
あーっ、宣孝(佐々木蔵之介)が派手派手、すっとんきょうな衣服を着ている!! これは清少納言『枕草子』に登場するエピソードだ。 「御嶽精進で、右衛門佐宣孝という人は『質素なみなりで参詣せよとは権現様は仰ってはいまい』と、濃い紫の袴に白の狩衣、山吹色のとても派手な衣で」同じく華やかな衣を着せた息子と共にお参りした。 「沢山の参拝客の中で目立たないと権現様に気づいていただけぬとキメた装束……派手だと皆を驚かせたが、実際そのお参りの後で昇進したとのことだ」 とある。宣孝の、柔軟でユニークな人柄が伝わる話だ。 この文章について清少納言が宣孝をディスったという説を時折聞くが、そうかなあ。 「面白いことがあるものねえ」という話ではないだろうか。 ただ、ドラマの清少納言──ききょうがこの宣孝の姿を見たら「ダサッ」という顔をしそうではある。 ところで、まひろに婿取りを持ちかけながらも、彼の息子とまひろをという為時(岸谷五朗)の話にダメダメダメダーメ!と言う宣孝、彼にしては珍しく動揺していませんでしたか……?
明子、道長の子を妊娠
明子(瀧内公美)の「子が出来ました」報告。 「こんな時でも、笑顔はないのだな」 「微笑むことすらなく生きてまいりましたゆえ、こういう顔になってしまいました」 明子の父・源高明が巻き込まれ失脚した安和の変は、明子が4歳の時に起こった。生い立ちを考えると無理もないけれど、一言一言が鉛のように重い。 「けれど、道長さまの御子を宿したことは嬉しゅうございます」 道長の肩に頬を寄せ、そう述べた次の瞬間にみるみる表情が変わる。瀧内公美の演技、絶品である。言葉にいちいち「お前んちのせいでこういう女になったんですわ」をこめられても、うんざりせずに通うあたり、道長は律儀だなあと感心する。粗略にしてはいけない身分の女性ではあるのだけれども。 ……愛憎を抱かないから律儀に優しく接することができるのか。 明子と対面しても、自分が政界から追いやった源高明のことすらよく覚えていない兼家。堪らず席を立つ道長、老いていようがなんだろうが、兼家の扇を手に入れ、とにかく呪いを成就させることに執心する明子。 明子の兄・俊賢(本田大輔)の言う通り、兼家は長くない。ならば、このタイミングで好きなだけ呪って、兼家が死んだら「私の呪いが成就した」と満足するほうが彼女の精神衛生上は良いのでは……と、現代人の感覚では考えてしまうが、呪詛の効力が信じられた時代は、呪いをかけたと発覚すれば処罰の対象となった。今回の明子の場合は扇を前に祈るだけだが、これで厭符(えんぷ/まじないの札)や人形を準備していたら、俊賢は血相を変えて止めたのではないだろうか。あのやり方なら、誰かに見られたとしても「舅である兼家様から賜った扇を前に、兼家様のご長寿を祈っておりました」という言い訳ができそうだ。