「小児性愛は依存症の一種。誰でもなりうる」…医師が語る加害者治療【こども・若者の性被害をなくそう】
こどもへの性暴力を防ぐため、精神科医の福井裕輝氏が設立した民間団体、性障害専門医療センター(SOMEC)は、こどもへの性暴力加害者500人以上を治療してきた。福井医師によると、こどもに性的行為をしたり、こどもに対して性的に興奮する空想を抱いたりする「小児性愛障害」は依存症の一種で、「人格が優れている」などとは関係なく、誰でもなりうるという。加害者治療の実態とは…福井医師に聞いた。
■犯罪行動を止める力を育てるトレーニング
こどもや大人への性暴力の加害者の治療には、カウンセリングの一種の認知行動療法と薬物療法(主としてホルモン療法)があります。 まず認知行動療法ですが、犯罪が起きるには、いろいろな要素が絡んでいて、人は、害になるような要素と(犯罪行動の)歯止めにできるような要素、いいところ、悪いところ、両方持っているんです。その悪い要素、つまりその個人が抱えている問題などをできるだけなくすようにして、自分で犯罪行動を止める力の方を育む。認知行動療法は筋トレのようなもので、余分な脂肪を取り除いて、筋肉を鍛えるようなことを1人の人に対して、トータルにやっていく治療です。 ──例えば加害者本人も小さい時代に性被害を受けた可能性があるとか、何か強いストレスを抱えていて、それを取り除くということでしょうか そうですね。例えば幼少期のトラウマ体験が現在の心理に影響を及ぼしている、とか職場でパワハラを受けている、過重労働を強いられている、そういったものが全部犯行の要因となるので、そういったものを取り除くように本人と心理士が考えながら変えていくという作業です。逆に歯止めになるものは、例えば被害者に対する「申し訳ない」という感情とか、本人が内面に持っているプラスの面で、それを強化していきます。
■治療には3~5年。治癒はなく、一生考え続ける必要がある
個別に治療した方が効率がいいと思われがちですが、グループ治療も有効です。他の人とディスカッションし、参考になる考えはうまく取り入れる。心理士が誘導しながら、うまく本人に適切な考え方などを身につけてもらうようにしていくのです。 ──「絶対誰にも言えない」と何十年も黙ってきたけれど、同じような悩みを抱えている人には、話しやすいとか そうですね。例えば加害者本人が抱える悩み、トラウマ、特に人に言えない事情みたいなものが様々な行動に影響を及ぼしているので、それを共有しあうことで、本人の気持ちの安定につながり、再犯防止にもつながります。 ──認知行動療法による治療はどのくらいかかるのか?一回改善してもぶり返すことはあるのか? ケースバイケースですが、患者には基本的に3年から5年ぐらいかかると伝えます。小児性愛障害はアルコールやギャンブルでみられるような「依存」と脳のメカニズムは同じです。「依存症」は治癒というのはなくて、一般的に「回復」「寛解」という状態にしかならない。常に再発、再犯の可能性があると考え、一生考え続けるといっても過言ではないです。