城氏が現地分析。なぜ「サランスクの奇跡」は起きたのか?
開始6分の香川の先制ゴールと、相手の退場で、試合の行方は9割方決まったと言っていい。ただ、長谷部が、試合後にコメントしていたが、相手が10人になると数的には有利になるが、チーム戦術は難しくなる。 しかし、日本は、ボールを回して相手の攻撃を受けつつチャンスがあれば、ディフェンスの合間や裏にパスを通して前へいくという「出る」「引く」のバランスを絶妙に保った。 「出る」ことにはリスクを伴うが、長谷部が、柴崎とのバランスのいいポジションを保ち、ディフェンスでボールを回して、中がつまると、サイドにふってコントロールした。柴崎も得意の縦パスを絡めながら、ボールを散らしてゲームメイク。フィールドを支配した。 想像以上にコロンビアが引いて守ったことも日本に幸いした。前半は、まだ攻撃的な面もあったが、ペケルマン監督は、数的不利を考え、まずブロックを敷いてから、カウンターを仕掛ける戦術を取った。日本からすれば、積極的に前に来られると怖かったが、これはペケルマン監督の采配ミスだろう。 サランスクの芝は人工芝と天然芝をミックスさせたハイブリッド芝で、長くて丈夫なものだから足をとられる。こういう芝で長時間プレーすると疲労が足に蓄積していく。日本は、その芝の特徴を汲み取った上で、ボールを回してコロンビアを守備に動かして体力を奪っていった。後半は、ほとんど、コロンビアの足は止まってしまっていた。その個の能力とオフェンスの破壊力を封じ込めたまま日本は、試合終了のホイッスルを聞かせた。90分間トータルでゲームマネジメントに成功した成果である。西野監督は11対10であっても、11対11のイメージでプレーせよ!と指示していたのではないだろうか。 大迫も、あのヘッドを決めるまでは、何度か決定機を逃すなど、決していい出来とは言えなかった。だが、ワールドカップ初ゴールで、自信をつけて、一変した。
後半25分に交代出場した本田の左足から放たれた最高のCKに大迫が、巧みなボディコントロールと、そのジャンプのタイミングで競り勝って頭を合わせたもの。あの決勝ゴールを生み出した背景にあるのが、その本田のCKだ。左のコーナーから左足でキックした場合、少し内側へ戻るような回転のボールとなる。本田は、あえて、そういう回転を与えていた。その回転のボールに逆らわず頭を合わせれば、ちょうど逆サイドにボールが飛ぶ。大迫は、クビを振って、その回転を生かしてヘッドを合わせていた。 試合後、大迫は、「あのセットプレーを何度も練習した」と語っていたが、本田の左足で蹴る回転に、どう合わせれば、どこへ飛ぶかを練習でつきつめていたのだろう。あれが右足のCKならば、同じようにヘッドを合わせても、ちょうどGKの正面に飛んでいたと思う。 今大会は、他のグループでも“魔の初戦”で前大会覇者のドイツが敗れ、優勝候補のブラジルがスイスと引き分けるなど、番狂わせが続いたが、日本も、その流れに乗った。歴史的な勝ち点「3」である。だが、グループリーグを突破するための本当の勝負はここからである。 ポーランドを破ったセネガルは、アフリカのチームらしく、しなやかでスピードがある。運動量に長けて組織的なディフェンスもできる。エースのサディオ・マネだけでなく、特にゴールを奪ったエムバイエ・ニアン、イスマイラ・サールの両サイドの身体能力とスピードは脅威だ。しかも、彼らは、グループリーグの最終戦にコロンビア戦を控えている。日本戦には是が非でも勝とうと全力で来るだろう。 日本はメンバーの再考と戦術の徹底が必要になってくるが、さらに重要なのが24日の試合までの中4日で、いかにコロンビア戦の疲れを抜きコンディションを整えるか。繰り返すが、本当の勝負はここからである。 (文責・城彰二/元日本代表FW)