マー君、ダルビッシュ..エースの穴はどうやって埋まってきたか?
エースの流出を中継ぎ投手の負担増で埋めることになったのが2007年の阪神だ(表6)。2006年に209回を投げていた井川の穴埋めとしてボーグルソン、ジャンという新外国人投手を獲得するも規定投球回には届かず、前年にローテーション投手だった福原、安藤まで大きく投球回数を減らしてしまい、このシーズンは1人も規定投球回数に届かないという異例の先発陣となってしまった。 この影響を受けたのが救援投手陣で、救援投手の投球回数は前年から170回近く増加、ルーキーの渡辺が58回1/3、前年1回1/3しか投げていない橋本が49回1/3とフル回転、さらに一番負担が増したのが久保田。久保田の投球回数は2006年の50回から倍増を超える108回に達し、登板数もプロ野球史上最多の90試合に膨れ上がった。この救援陣の奮闘もあって勝率は前年からマイナス.063にとどめたものの、エースの流出が先発陣全体の地盤沈下を招いた例だといえるだろう。
そしてエースの穴以上に穴埋めできてしまった稀有なケースが2008年の広島である(表7)。2007年オフにドジャースへと移籍した黒田の後釜として新外国人のルイスを獲得すると、前年の黒田とほぼ同等の投球回数と、黒田を上回る勝率を記録し穴が見事に埋まった。さらにこのシーズンには2年目の前田健太がデビューし、108回2/3を記録、先発試合の勝率はルイスを超える.647だった。このあと前田健太が球界を代表するエースにまで成長したこともあって、これが最もスムーズに大エースの穴を埋めきったケースとなった。
そして今シーズン、広島はその前田健太が再びドジャースに流出するという事態に直面している(表8)。当然その穴は大きなものだが、一つ興味深い事実もある。表1で示したように昨シーズン前田が登板した試合の広島の勝率は今回のケースの中では最低の.517しかなかった。エースが投げた試合でこれだけしか勝てなかったことは昨シーズンの低迷の大きな要因であったが、逆に言えば今回の穴が、少なくとも「質」の面では田中や松坂のケースのような大きなものになっていないということでもある。 前田が先発していた29試合を5割の勝率で乗り切れば勝率の面での悪影響はほとんど出ないのだ。田中の27試合を勝率5割で乗り切っても勝ち数が半減していたことになる2014年の楽天のケースと比較すれば、その穴の差がお分かりいただけるだろう。さらに今シーズンの広島の場合は、前年に2番手投手としては今回の7ケース中最多となる194回1/3を記録したジョンソンの存在も大きい。200イニングを超えた投手が抜けてなお200イニング近いイニングを計算できる投手がいるという状況はかなり恵まれたものでもある。 果たして今シーズンの広島は前回の黒田流出時と同じように危機を乗り切ることができるのか?大いに注目したいところだ。 (株)日刊編集センター