マー君、ダルビッシュ..エースの穴はどうやって埋まってきたか?
次に大きい「穴」だったのが2006年オフにレッドソックスに移籍した松坂のケースだ(表3)。田中の勝率.963には及ばないものの2006年の松坂先発試合の西武の勝率は.760と今回の7つのケースの中では2番目に高いものだった。この穴をある程度埋めたのがそのオフに入団した岸だった。岸は前年に松坂が記録した186回1/3には及ばないものの156回1/3を投げて大部分をカバー、チームの勝率も.565と好成績だった。 しかし勝率.760という「質」は1人の新人の活躍で埋まるものではなく、西武の勝率は.132も下落、順位も前年の2位から5位へと大きく後退してしまった。ただし岸はその後も2ケタ勝利7回と順調に成長、エースの座自体はスムーズに引き継がれた。
ここまでの2チームとは対照的に「穴を埋めきった」のが2012年の日本ハムだ。この年の日本ハムは前年に18勝6敗、防御率1.44と圧倒的な成績を残し、232イニングも投げていたダルビッシュがレンジャーズに移籍した。この232というイニング数は今回のケースの中では最多のもの。「量」の面では最大の穴だった(表4)。 この穴埋めに最大の貢献を果たしたのがプロ入り6年目、前年は一軍で0勝だった吉川だ。この年の吉川は173回2/3の投球回数を記録し14勝を挙げる大活躍、先発試合の勝率は前年のダルビッシュを上回る.708というもので「質」という埋めがたい穴を埋めてみせた。そして「量」の面では多田野、八木という過去に実績ある中堅投手が復活、前年の先発回数は多田野が0、八木は3回というものだったが、この年は2人合計で30回の先発をこなして穴埋めに貢献した。この結果チームは前年を上回る勝率を記録し優勝、見事にエース流出のシーズンを乗り切ってみせた。
ただしこの日本ハムのケースでは前年にリーグ覇者のソフトバンクが同じようにエース流出のシーズンとなっていたことが、好成績につながったことも間違いないだろう。2012年のソフトバンクは日本ハムよりさらに大きな穴に直面していた。前年16勝でチームトップの184回2/3を投げた和田がオリオールズに移籍したことに加えて、先発試合の勝率では和田を上回り、最多勝も獲得したホールトンと、チーム4位となる171回1/3を記録した杉内が揃って巨人に移籍してしまったのである。 チームの総投球回数の4割以上を投げていた3投手が流出するという、総合的には近年最大の穴は、埋まるものではなかった。前年34回2/3に止まっていた大隣が177回1/3を投げて左のエース格に成長し、さらに高卒ルーキーの武田や復活した新垣などが奮闘したものの、チームの勝率は.149も下がって順位も3位に後退してしまった。