八木勇征の静かな決心「もう僕には、普通は要りません」
「普通の日々は要らないと思っています」と静かに語る八木勇征の言葉は、静謐だった。その研ぎ澄まされた清々しさは、FANTASTICSのボーカルとしてデビューして以降、役者としても多様な経験を積んできた怒涛の歳月から滲み出てきたのか。11月15日(金)公開『矢野くんの普通の日々』にて、主人公・矢野くんを演じた八木に「普通とは何か?」と、率直に問いかけてみた。 【全ての画像】八木勇征インタビュー写真ほか(全14枚)
フレッシュな10代を意識。キーワードは「純度100%」
本作で演じた高校生の矢野くんと、八木自身の年齢とは約10歳の差がある。「気持ちの面も含め、高校生らしいフレッシュさを意識した」と役作りについて触れた八木は、当初、新城毅彦監督からも「ちょっと落ち着きすぎちゃってるね。高校生に見えない」と演出を受けた裏側を明かした。 「池端杏慈さん演じる吉田さんと矢野くんが交換日記を始めるシーンがクランクインだったんですけど、二人の仲が深まる前の段階でセリフも少なかったせいか、少し大人びた雰囲気を作ってしまいました。そこから新城監督とも相談して、矢野くんの持ち前のピュアさや、いつも100%の感情で動く嘘のないところを表現しよう、と意識して演じるようになりました。」 本編で見せている学ラン姿には何の違和感もないが、積み重ねてきた俳優としての経験値は自ずと浸潤してしまうのかもしれない。フレッシュな10代を表現するにあたり、八木の念頭にあったのは「純度100%の感動を示すこと」だった。 「学生時代って、学校が世界のすべてになると思うんです。そんな場所で起こる感情って、60%とか70%とか曖昧になることは少なくて全部100%だと思うんです。とくに矢野くんにとっては、みんなと平和に過ごせる普通の高校生活そのものが奇跡なので、一つひとつの出来事に全力で感動に満ちていているのが伝わるように意識しました。」 嬉しい出来事には100%喜ぶ。常に0か100か、感情のメーターがわかりやすい点が矢野くんと共通している、と分析する八木は、本作で声のトーンを少し上げている。どこか浮世離れした矢野くんの雰囲気を醸し出すのに一役買っているが、その理由に「矢野くんが、ただの可哀想な子に見えないように」という思いがあった。 「矢野くんは不運に見舞われて怪我をしてしまっても、深刻にならないんですよ。暗さを出さない。過去に経験したトラウマによって周りの人と距離を取ろうとしますけど『矢野くん、かわいそう』ではなく『頑張って前に進もうとしてる!』と思ってほしいんです。必死に自分に打ち勝とうとしている彼のことを応援してほしい。そんな想いから、矢野くんの声は少し高くしています。新城監督とともに、応援できる矢野くん像をつくり上げていけたらと思っていました。」