八木勇征の静かな決心「もう僕には、普通は要りません」
「どうして『普通』って言葉があるんだろう」
常に現場のスタッフやキャスト、同じFANTASTICSのメンバーについて思いを馳せるのは、簡単なようで難しい。ファンに対しても「自分に時間を使ってくれることが嬉しい」と自分なりの言葉選びで感謝を表すことを惜しまない八木にとって、平穏な“普通”の暮らしは確保できているのだろうか。 「『普通』っていう言葉がなんで生まれたんだろう、って思うんです。好きな言葉かと言われると……。人それぞれの普通っていう価値観はあって良いと思うけど、やっぱりそこには個人差があるし、僕は『大多数に当てはまる普通』は重視していません。とくにこの仕事において、普通に甘んじていたらダメになるって思います。もう僕には、普通の日々は要らないです」 普通は要らない。強い言葉だ。「普通の日々に戻ってしまったら、もう普通以外には戻れなくなる気がして」と続ける八木にとって、急激に露出が増えたここ数年の間に、学び、感じとるものが多かったのだろう。 「普通ではない経験をたくさんさせてもらえたからこそ、もしこの世界に入るまでの日常に戻ったとしても、またその経験や刺激を欲してしまう。この仕事をしているからこそ、たくさんの方に存在を知ってもらえるし、誰かの人生を変えるきっかけにもなれる。それくらい強力なパワーを持てる世界だから、僕は『八木くんの普通じゃない日々』が大好きです」
緊張感をオーラや存在感に変換していく
過去には「お休みは要らない、お仕事がご褒美」とも繰り返してきた八木。「いまもそれは変わりません。一度止まっちゃったら、動き出せなくなるから」と変わらないモットーを掲げた彼は、いつだって「瞬間」に全力を注いでいる。 「この前『LDH LIVE-EXPO 2024』のリハーサルがあって(※取材日は10月初旬)、三代目(J SOUL BROTHERS)の臣さん(登坂広臣)にお会いしたときに『すごい忙しそうだけど大丈夫か?』って言ってくれたんです。その直後に今市さん(今市隆二)にお会いしたら、まったく同じ心配をされました。過酷すぎるスケジュールをこなしている先輩方からそんな言葉をもらえること自体、僕にとっては嬉しいことなので、全然大丈夫です」 あれをやっておけばよかった、これをしておけばよかった、と「やらない後悔」をしたくない。「いまの僕にやれることがあるなら、全部やらせてもらえたほうが幸せ」と臆することなく言ってのける。 「これからもいろいろな経験を積んでいって、僕にしかできない作品、僕にしかできないライブやパフォーマンスをしていきたいです。この選択と生き方を守ることが、僕の人生だと思っています」と続ける八木に「先輩の背中を追いかけながら?」と問いかけてみると、鮮やかに口角を上げながら「追いかけ、追い越していけるように」と返ってきた。 「常に『緊張』を感じています。なかでも悪い緊張と良い緊張の二種類があって、前者は自分をダメにしてしまうけど、後者は迫力やオーラ、存在感に変わってくれる良い緊張感なんです。アーティスト活動でも俳優活動でも『良い緊張』を味わいたいです。誰かひとりでも緊張感が欠けてしまうと、ただの内輪ノリやホームビデオになってしまうこともあるので、常に良い緊張を持てるように意識しています。」 肉体だけではなく、その精神の強靭さは何に由来するものだろう。知りたい気持ちと、そう簡単には詳らかにされない諦めと。その両方を観る者に喚起させる、彼の佇まいだけが確かにあった。 『矢野くんの普通の日々』 11月15日(金)全国公開 配給:松竹 作品概要 主演:八木勇征 出演:池端杏慈 中村海人 白宮みずほ 新沼凜空 伊藤圭吾 筒井あやめ 原作:田村結衣「矢野くんの普通の日々」(講談社「コミックDAYS」連載) 監督:新城毅彦 脚本:杉原憲明 渡辺啓 伊吹一 音楽:信澤宣明 主題歌:Yellow Yellow/FANTASTICS from EXILE TRIBE (RhythmZONE) 挿入歌:Staying with you/Travis Japan (キャピトル・レコード/ユニバーサルミュージックジャパン) 企画製作:HI-AX 制作プロダクション:ダブ 配給:松竹 (C)2024 映画「矢野くんの普通の日々」製作委員会 (C)田村結衣/講談社 取材・文/水野こころ、撮影/映美 ヘアメイク/福田翠、スタイリング/中瀬 拓外