日本人のIRとの付き合い方は? ── IRマネジメントコース新設の大商大大学院・谷岡学長に聞く
ギャンブル依存症を受け止め万全の対策を
──利用客に無理をさせないのも、ホスピタリティの一環であると。 もっと厳密に対処する「自己排除」プログラムもある。ご家族から「この人がカジノに来たら入れないでください」という要請や、ご本人から「私が100ドル使ったら、退場させてくれ」という申告を受けて、強制的に排除するシステムだ。 ──サービス業の顧客対応としては、かなり厳しいですね。 私はIRの研究者であると同時に、ギャンブル依存症研究にも取り組んできた。アメリカでギャンブル依存症の治療施設を視察したこともあるが、カジノが盛んな地域では依存症研究を重ね、ソフトな対応から厳密な対処療法まで、さまざまなプログラムを実践している。 半面、日本のようにカジノを認めずに、ギャンブル依存症を半ば放置しておくのが、もっとも良くない。カジノができた地域は、統計上、ギャンブル依存症患者が増えるが、相談窓口ができてギャンブル依存症患者が顕在化するから。重要なことは、ギャンブル依存症対策を、一定の社会的リスクと受け止めたうえで、依存症の実態を究明し、依存症の対策や治療にお金が回っていく仕組みを作ることだ。
多様な人材が集まり日本型IRを切り開け
──どんな人材の入学を期待するか。 3年ぐらいの社会経験を積んで、軸足の定まっている人が望ましい。「建築に携わっているので、カジノフロアのデザインを研究したい」「学生時代に学んだ心理学を生かして、ギャンブル依存症の治療に貢献したい」などの明確な目標を持った人材だ。カリキュラムとして、依存症論も重視している。ある程度の英語力が必要となるが、いろいろな分野から多様な人材が集まって、日本型IRを切り開いてほしい。 ──実践も重視するのか。 2年目の夏に、2週間ほどUNLVへ研修に行く予定だ。午前中に講義を受け、午後からはラスベガスのカジノやホテルの現場をいろいろ見て回る。 ──現地で何が学べるのか。 ラスベガスには客室が5000室クラスのホテルがたくさんあり、25万人が参加する見本市を開いて、宿泊客を受け入れることができる。代表的なIRにはエレベーターが100基ほど設置されているが、半分は従業員用。ワンフロアが数百室、数十階建てのホテルの場合、顧客サービスに24時間応えるため、従業員が機敏に動くには、それだけのエレベーターが必要になるからだ。 深夜の午前3時にチェックインする客を、きちんと迎え入れることができるか。何千人の従業員の制服をいかにして洗濯するか。24時間眠らないIRのすべての施設を、どのようにすれば、顧客のじゃまにならないように掃除できるか。すべては試行錯誤を経て培われたIR独自のオペレーションの成果だ。日本にはこうしたノウハウが存在しない。学生たちにとっては未知の世界で、現地では驚きの連続だろう。 ──大阪がIR研究の拠点になりますね。 IRはビジネスチャンスにあふれている。未知の世界だからこそ、プラスとマイナスを比べてプラスの方が多ければ、チャレンジしようという気概がほしい。 大阪は新しい産業が次々と創造されてきた日本の元気印の素。大阪商業大学のある東大阪市は、ものづくりで先進的なまちだ。この東大阪市から、IRの人材育成を始めることに、意義があると考えている。 <メモ>大阪商業大学大学院の「IRマネジメント」コースは、起業家やビジネスリーダーを育成する大学院地域政策学研究科経営革新専攻の特別教育研究コース「IRマネジメント」として、2015年4月、開設される。谷岡学長も講義を行う。詳細は同大学公式サイトで。 (文責・岡村雅之/関西ライター名鑑)