「妊娠した女性監督がこの世の終わりくらい悩んでいた」Netflix岡野真紀子Pが語る女性と映像界
「恥を知りなさい!」先人の発言と未来への責任
―この後ケリング「ウーマン・イン・モーション」のトークセッションですね。「ウーマン・イン・モーション」は、グッチやサンローランなどのブランドを擁するグローバル・ラグジュアリー・グループのケリングが、2015年にカンヌ国際映画祭にて発足したプログラムで、映画界をはじめとする文化・芸術分野で活躍する女性に光を当てる取り組みです。そこで伝えたいこと、話したいことはどんなことでしょうか? 岡野:私はNetflixに入ってから、性差を意識する瞬間がないんですよ。リスペクトトレーニングやインティマシーコーディネーターの導入などで、徐々に現場の改善が進んでいると思っています。 そういった感覚――男性である、とか、女性である、とかを忘れる瞬間――って、じつはすごく大事なんじゃないかな、と。性別も、背景も、年齢も関係なく、プロがプロであり続けられるっていうことって重要だと思っているので、そういった場所に身を置いてる自分だからこそ、伝えられる部分、そして伝えたい部分があります。 例えば私以外のみんなもこうやって発言していくことで、勇気をもらったり、アドバイスをくれたり、お互いが意見を言い合える環境をつくって、次なる道を切り拓いていけたらいいんじゃないかな、って思って参加します。 ―まさにケリング「ウーマン・イン・モーション」が、議論する場の大切さを思ってのプログラムだと感じているのですが、どう考えていますか。 岡野:こういった場で、菊地さんや磯村さん、是枝監督が課題に思ってることを口に出すことが、誰かの救いになっていくんじゃないかと思うので、何かすごくいい場だというふうに感じています。 また、自らの発言の責任についても考えますね。先ほども触れた、脚本家の倉本聰さんとのエピソードがあって。私がまだ20代でプロデューサーだったときに、とある新聞記者のひとが取材で「いまどきの若い女性とのお仕事ってどうですか」って、倉本先生に聞いたんですよね。すると先生が「君、失礼だなっ!」ってブチギレて。つまり、「岡野真紀子というプロデューサーと仕事しているのであって、彼女が若いとかイマドキだとか女性とか、関係ない。それを一つにくくるあなたは、恥を知りなさい」って言ったんです。 そのとき、かっこいいなって思いました。こういう人が発言して、業界を変えてくんだなって。自分も徐々にキャリアを重ねていくうえで、そういう意識を持って発言していかなくては、と思いました。それが私の責任でもあるなって。 ―倉本先生、素敵ですね……。先ほど「救い」とおっしゃっていましたが、それはどういうひとにとっての「救い」になり得ると思っていますか? 岡野:自分の人生の選択がキャリアにとってマイナスなんじゃないかって不安に思っている方、もしくは、この映像業界で女性がどれだけ活躍できるんだろうかって迷っている方、ですね。いろんな道があるんだということは知っていてほしいし、勇気を持っていてほしいなっていうのは、すごく思います。 いまはもちろん全然違うけど、私が映像業界に入った20年前って、女性が働くことって、「期間限定」に見られていた瞬間があったんですよね。男性陣は退職までキャリアの道があるのに、女性陣は結婚したら、出産したら、いなくなるんだろうなって、勝手にリミットを決められていたなって、感じます。何度か「岡野が男だったらもっとよかったね」って言われたこともあって、ほめてるつもりだと思うけど、私にとっては違和感があった。 そう思ってる人がまだいるかもしれないからこそ、そうじゃないんだよっていうことも知ってもらえたら、希望になるんじゃないかなって思いますね。
インタビュー・テキスト・撮影 by 今川彩香