個人だけで年約46兆円、なぜ米国民は桁外れに寄付するのか 善意と売名、微妙な線引き【ワシントン報告⑧寄付大国】
地域社会の課題は地域に根ざした組織や住民の方が適切に対応できる場合が少なくないだろう。寄贈で賄おうという考え方は素晴らしいことだが、巨額寄付には寄贈者の思惑が当然ある。 スタンフォード大のロブ・ライヒ教授は著書で「慈善活動は権力行使の一つの形態であり、公共政策をねじ曲げるために個人資産が使われかねない」と民主主義に逆行する恐れを指摘した。「巨額寄付はしばしば説明不足で透明性を欠き、寄贈者の言いなりだ」とも批判している。 ▽「仕組みがあれば日本でもできる」 米国で昨年、慈善事業への寄付金は4990億ドル(約72兆円)に達し、このうち個人寄付は3190億ドル(約46兆円)を占める。2020年の日本の個人寄付は1兆2千億円だった。米国と歴史的に近い英国も日本と大差がなく、米国の突出ぶりが目立つ。 米国の寄付コンサルタント団体ドナーサーチのジェイ・フロスト氏は日本の事情にも詳しい。「日本でボランティアが本格的に始まったのは阪神大震災以降だろう。1998年にNPO法はできたが、法人格を得るためには今なおずいぶん苦労があると推察される」と米国との違いを対比させた。
それでも、米国民だけに寄付の意識があるとは考えていない。「資金集めのやり方が確立しているからではないか。仕組みがあれば日本でも英国でもできる」と語った。ブラナ氏も「(他者に寄贈するという)寛大さは人間が誰しも持つ性質で、米国に限ったものではない」と言う。 そうは言っても米国が築き上げた資金集めの仕組みの確立そのものが難しい。フロスト氏は資金集めの背景に層の厚い非政府組織(NGO)や慈善団体の長い活動の歴史、税制、寄付集めのプロの貢献があると説明したが、それら自体が米国の独自性を示しているのではないか。