源田壮亮「優勝を目指せるチーム。そこを目指してやるだけ」
大学野球日本代表合宿で、新たにスイッチが入った
高校では野球部に入部したものの、卒業後は就職を考えていた。ところが高校2年のときに大きな変化が起きる。その冬から春にかけ、身長が160cm台から176cmほどまで伸びたのである。「春の大会はニュー源田でした」と言う。卒業前にはプロから育成指名の声がかかった。だが、まだプロでやる自信はなかった。 大学野球といえば、中心を成すのは六大学野球や東都大学野球といった東京である。だが、あるチームから話があったのに流れてしまう。そして、選んだのが愛知県にある愛知学院大学だった。1年の春からベンチ入り、秋にはレギュラーになる。 「運が良かっただけです。それまでレギュラーだった人がケガをして…。愛知学院はレベル高かったですよ。東京の大学を倒すって。みんな東都を目指してたけど、僕と同じような境遇だったんです。だからスカウトが注目する選手もいました」 守備はピカイチだった。ただ、打撃は少々物足りない。大学3年の冬から、それを解消すべく練習時間のほとんどをバッティングに充てた。その結果が春のリーグ戦、全国大会へと繫がっていく。同時期、もうひとつ貴重な体験をする。大学野球日本代表合宿に招聘されたのである。 「行ってみると雑誌でよく見る、もう絶対ドラフト上位という人たちがいっぱいで、それを目の当たりにしました。僕が持っている彼らのイメージは空振りしない、エラーしない、全部ヒットかホームランみたいな感じだった。ところが、実際には空振りするし、エラーもする。これならがんばればいけるかもって、逆に自信がついてスイッチが入りました」 卒業後、社会人のトヨタ自動車に入社する。この選択が源田にとってプラスに働く。それがコーチの乗田貴士さんとの出会いだ。乗田コーチは、トヨタ自動車で長く現役を続けた守備の名手である。彼が源田の守備をもう一段高いところへ導いた。 「それまで自分の守備をちゃんと指摘してくれる人がいなかった。トヨタに入って、コーチにいろんなことを言われてとてもうれしくて、ついていこうと思いましたね。実際、練習していくと、どんどん自分のなかでも変わっていくのがわかった。たとえば、グラブをここに置いていたほうが一番無駄なくボールが入ってくるよね、なんて感じ。ただ、今までの十何年間の自分のクセがあるので、とにかくそれを取り除くために延々と守備練習をやっていました」 2年目の公式戦はノーエラー。そしてこの年、ドラフト3位でライオンズに入団が決まるのである。 選手が結果を出していけば、自然と先は見えてくる 昨年のWBC後、源田は骨折のため開幕には間に合わず、少々悔しいシーズンを過ごした。ライオンズも19年以来優勝を逃している。というか、昨年は5位に沈んでしまった。それだからこそ今年は、復活を期待するファンの声は高まっている。それに応えなくてはならない。 「これまで戦ってきて、本当に優勝を狙えるチームだと思っているんです。だから、そこを目指してやるという気持ちは強く持っています。そのためには、理想ですが一年間選手がケガで欠けることがないようにしたい。 優勝したチームは、一年間ほとんどスタメンが変わってないですから。僕らが優勝した18年、19年もそんな感じでした。そして、試合に出る選手が結果を出していければ、自然と見えてくると考えています。そうなればいいですね。一年間みんなで戦ってよかったと思えるので」 週に6日試合があって、結果は非情にも全国へと流れる。“それは苦しいですね?”、そう聞くと源田は、「もちろん苦しいですよ。でも、そんなことが全部、吹き飛んでしまうのが優勝なんです」と、笑った。
取材・文/鈴木一朗(初出『Tarzan』No.876・2024年3月21日発売)