介護経験者から見ても自然...奥田瑛二が語る“認知症患者”を演じる難しさ
「100%役になりきる」がベストな演技とは限らない
――「僕はずっと孝蔵だった」の言葉に凄みを感じます。実は私自身、認知症の母を10年以上介護している身なのですが、奥田さんの演技のリアリティは、在宅介護の経験がフラッシュバックするほどでした。大きい声を出されるとビクッとしたり、口は半開きなのに目には怒気がにじんでいたり......。 どうしたら、そこまで「フィジカル面」をコントロールできるんでしょうか。 【奥田】答えになっているかはわかりませんが、監督から「本番いきまーす」と声がかかると、そこでもうぐわ~んと、認知症の人になるんです。そしてカチンコが鳴ったときには、もう孝蔵になっている。 カットがしばらくかからないままだと、途中で「奥田瑛二」である自分が、どこかに行っちゃいそうになることもあります(笑)。 役に100%没入するのではなく、0.1%は客観的な視点を持っておくことが大切ですね。 ――「100%なりきる」ではダメなんですか? 【奥田】世間では「あの人は役に100%なりきっている」がベストと思われがちですが、本当にそのラインを超えてしまうと、観客に何かしらの違和感を与えるようになってしまうんです。 さっきの「3人の僕」の話じゃないけど、演じている自分の上から、もっと客観的な自分が「お~い、行きすぎだよ!」って注意してくれることもあります。 でも「100%を超えそうな瞬間」は、準備をきちんと積み重ねないと味わえないものですね。 ――僭越ながら、介護経験者から観ても、奥田さんの認知症の演技は史上最高峰だと思いました。 【奥田】いやいや、そう言っていただけるのはほんと嬉しいです。正直この作品、自分でも観るのが怖すぎて「試写会なんて行かないよ」って言いたいくらいだったので。なんか今、ほろっとしちゃった。 【奥田瑛二(おくだ・えいじ)】 1950年、愛知県生まれ。79年の映画『もっとしなやかに もっとしたたかに』で初主演。86年『海と毒薬』で毎日映画コンクール男優主演賞、89年『千利休・本覺坊遺文』で日本アカデミー賞主演男優賞を受賞。94年『棒の哀しみ』ではブルーリボン賞など8つの主演男優賞を受賞する。近年の出演作に連続テレビ小説「らんまん」(23年度前期/NHK)、主演映画『洗骨』(19年)などがある。
奥田瑛二(俳優)