「小さな自然に触れることから世界が変わる」プランター栽培のススメ
種や土の袋には、必ずといっていいほど薬や肥料のことが書かれています。そこにあるマニュアルどおりにしなくても、土と水と太陽と微生物の力だけで実は十分に育つということを、まずは実感してほしいのです。 マニュアルどおりにやろうとすると、環境負荷を与えてしまい、育った野菜はおいしくなくなります。まずは気負わずに、何も入れないで育ててみればいいと思います。 またプランター1つをとってみても、ほとんどがプラスチックでできているものだと気づきます。土でさえほぼビニール袋に入っています。プラスチックは確かに便利で現代の生活に欠かせないものですが、一方で適切に処理されなかったプラスチックごみが海洋へ影響を与えるなど問題もあります。 世の中にはいろいろなものが売られていますから、何の疑問も持たないまま値段の安さだけで選ぶと、間違った選択をしてしまうこともあります。ところがそれらに対して興味をもって、どこでできたのか、原材料は何なのか、なぜ海外から運ばれてくるのにこんな安い値段で販売されているのかなどと考えていくと、世界に張り巡らされたサプライチェーンの問題を感じられます。 そして、原料調達や製造の過程に犠牲者がいることが見えてくると思います。このように買い物1つをとってもさまざまなことを感じることができるのです。 誰かを犠牲にして安い労働力を使って作り、二酸化炭素を大量に発生させながら遠くの地から物を運ぶようなやり方は、持続可能な未来を築くうえで考え直す必要があります。 実はわざわざプランターを買いに行かなくても、土のう袋や麻袋で育てることができるということも知っておいてほしいと思います。 土を入れるのはプランターだけではありませんので、ぜひいろいろな方法を試してみてほしいと思います。
● 目の前で変化していく命に 愛情を注ぐ さっそく土と種を用意して野菜を育ててみようというときに、1つ覚えておいてほしいのは、完璧なマニュアルの類いはいっさい存在しないということです。野菜を育てるということは生き物を育てることであり、個体差や環境に大きく左右されるからです。 単純にマニュアルを信じ込んでしまうと、枯れてしまったときにマニュアルのせいにしてしまいかねません。それよりも、目の前で変化していく命を、毎日欠かさず自分の目でしっかり観察することが大切です。 何事もなく順調に育てば楽ですが、必ずしもそうはいかないのが生き物です。元気がなくなることもありますし、芽が伸びてもひょろひょろとしていて頼りない状態が続くこともあります。逆に勢いが良過ぎてプランターに収まりきらなくなることもあります。 そういうときは、水や光、温度、湿度、土の状態を確認しながらあれこれ自分で試します。インターネットなどで調べればあらゆる情報が出てきます。ただし、正確で信頼性のある情報を見極めることが重要です。 やがて実がなります。できた実はスーパーで売られている絵に描いたような見栄えではないはずです。形がいびつだったり、色が薄かったり、とても小さいこともあります。でも決して失敗だととらえずに、自分で調理して食べてみることが大事です。 きっとそのおいしさに驚くはずです。そして自分で愛情をもって育てたものは、いくら完璧でなくても、とびきりおいしいことを心から実感できるのです。そして愛が生まれている自分に出会えるはずです。私はそこに命のつながりという真実があると思います。
山岸 暢