米国7月小売売上高の上振れで円安株高の巻き戻しが進む:金融市場は依然不安定で、行き過ぎた円安株高の調整という基本構図は継続か
15日に発表された米国の7月小売売上高が事前予想を上回ったことで、米国の景気悪化懸念が和らぎ、米国株高と円安ドル高が進んだ。統計発表直後にドル円レートは1ドル147円台前半から149円台前半へと一気に円安に動いた。 7月の小売売上高は前月比+1.0%と事前予想の同+0.3%を大きく上回った。他方、6月分は前月比0.0%から-0.2%に下方修正された。ただし、変動が激しい自動車、ガソリン、建築資材、食品サービスを除く売上高は前月比0.3%増と、前月の同+0.9%増から低下しており、見かけほど強い数字ではなかったと言えるだろう。 今週発表された、米国7月消費者物価統計(14日発表)と米国7月小売売上高(15日発表)は、株式市場のコンフィデンスの回復を後押しする組み合わせとなった。物価上昇率の低下傾向確認で、米連邦準備制度理事会(FRB)は9月に利下げを実施するとの観測が一段と強まり、これが株式市場に好環境を提供する一方、小売売上高の増加は米国経済の悪化懸念を緩和するものとなり、これも株式市場の好材料となった。再び米国株式市場にとっては好ましい「スイートスポット」の環境が戻ってきたかのような印象もある。 しかし、これらの経済指標だけで米国経済の実態を正確に評価することはできない。そもそも小売統計は速報段階では概して信頼性が低い。また、見かけの数字は予想を上回ったが、変動の激しいコアの売上高は強いとは言えない。通常、金融市場が大きく反応することが稀なこの小売統計に、金融市場がこれほどまで大きく反応したのは、金融市場が依然として不安定であることの証左だろう。 他方、同日に発表された7月鉱工業生産指数は、製造業の生産指数が前月比-0.3%と事前予想の-0.2%を下回った。また6月分は当初発表の前月比+0.4%から同0.0%に下方修正されるなど弱い内容となった。小売売上高だけで、米国経済の安定を確認できたと考えるのは誤りだろう。 米国景気後退観測が本格的に浮上するきっかけを作ったのは、7月分雇用統計であることから、9月初めに発表される8月分雇用統計が、米国経済を判断する上で極めて重要となる。そこまでは、米国景気悪化懸念に基づく米国市場の不安定な状況は変わらないのではないか。 15日の米国市場では米国株高が進んだが、日本市場ではこの米国株高の影響に円安ドル高の影響が加わることで、日本株はより大きな上昇となった。寄り付き直後の日経平均株価は一時1,000円を超える大幅上昇となり、3万7千円台を回復した。ドル円レートも1ドル149円前後で推移している。 このように、8月に入って急激に進行した円高株安の巻き戻しが進んでいる。しかし日本銀行の利上げとFRBの利下げがもたらす円安修正と米国景気悪化懸念が、日本銀行の過度の金融緩和が生み出した「円安株高バブル」の調整を後押しするという構図に変化はないのではないか。 木内登英(野村総合研究所 エグゼクティブ・エコノミスト) --- この記事は、NRIウェブサイトの【木内登英のGlobal Economy & Policy Insight】(https://www.nri.com/jp/knowledge/blog)に掲載されたものです。
木内 登英