驚安ドンキ、平均400円の商品を売って年間2兆円 原動力は権限委譲
35期連続増収・増益という猛烈な勢いで成長を続ける総合ディスカウント店「ドン・キホーテ」。運営会社のパン・パシフィック・インターナショナルホールディングス(PPIH)の売上高は2024年に初めて2兆円を突破し、今や日本の小売業界では第4位の巨大企業だ。そんなドンキの素顔について、日経クロストレンド新刊『ドンキはみんなが好き勝手に働いたら2兆円企業になりました』から一部抜粋してお届けする。今回はドンキのマネジメントの大きな特徴である「権限委譲」と、なぜ「ドンキはヘン」と思われるかについて、吉田直樹社長が自分なりの考えを明らかにする。 【関連画像】『ドンキはみんなが好き勝手に働いたら2兆円企業になりました』(日経BP)。吉田社長をはじめ“内側の人間”だからこそ書けた「ドンキ大躍進の真実」をこの1冊に凝縮 ●単純計算で50億個以上、商品をコツコツ売って2兆円 ドンキを中核とするPPIHは2024年6月期決算で、売上高が初めて2兆円を突破しました。また当社は時価総額も2兆円を超えており、これは日本企業のトップ100に入るくらいの規模です。 この2兆円をつくっている商品の平均販売価格、いくらだと思いますか? 実は1商品の平均販売価格は400円に届きません。ドンキは小さな商品を売る、文字通り「小売り」です。400円弱の商品の販売を毎日各店舗でコツコツ積み上げていって、1年間で2兆円になったのです。2兆円を400円で割ると、単純計算で50億個以上、商品を売らなければなりません。 僕が自分の会社に誇りを持っているのは、まさにこの点です。店舗の最前線で働いている社員やアルバイトのみんなが知恵を絞って魅力的な商品を仕入れ、思わず買いたくなる買い場をつくっていることの証しなのです。 ●権限委譲とは、信頼関係の上に成り立つ「契約」 ここまでは、僕たちの実践している権限委譲が、自由にあふれている、ということを書きました。続いて、そうは言っても、何でもアリじゃないですよね、という疑問にお答えしようかと思います。 さすがに、それはその通りです。僕たちは、上場もしています。売り上げも2兆円ですが、時価総額も2兆円を超えています。お客さまに対する責任、株主や市場に対する責任、お取引先に対する責任ももちろん大きく、企業としてその義務を果たさなければなりません。例えば、食品や日用品も数多く取り扱っているわけですから、安心や安全は最重要の課題です。 こういった文脈で考えると、権限委譲とは「会社と権限委譲を受けた者との間の契約」に近いものだと、僕は考えています。具体的には、会社と被権限委譲者は、目標と期限を相互に合意する。そして、会社は最小限のルールは課す代わりに、被権限委譲者は自由裁量によって思い切ったアクションを取ることができる、こういう契約なんだと思います。 会社ですから、遊びではありません。安心や安全といったルール、損はここまでといったルール、そういった最小限のルールは必要です。でも、それ以外は思い切って任せる。このギリギリを実現するための契約ですから、契約にうたうことは大切です。 なぜかと言えば、お互いに約束(=契約)することにより、当事者同士(上司と部下など)が、曖昧さを排することができるからです。何をやってもいい、何はやってはいけない、ここにきちんと線を引くことは、権限委譲においては最重要事項です。いくら儲かっても、お客さまに迷惑をかけることは容認できない。オモシロさをどれだけ推奨しても、オモシロイだけでは継続することはできません。それは、ビジネスではないからです。 ただ、実は最も大切なのは、契約の文言というか表面上に書いてあることではなく、信頼関係だと思っています。これは、どんなビジネスでもそうではないかと思います。最高の契約書を作っても、どれほどありとあらゆる場面を想定して契約事項を詰めたとしても、信頼関係がないと、契約は成立しないからです。 そして、契約はシンプルであるほど良いと思います。最小限のことだけを決めて、あとは信頼関係によって思い切って任せる、任される、ということなんです。