なぜ中国人に「サイゼリヤ」は人気? 元社長が、赤字のまま20店舗も出店したワケ
個人消費低迷、原価高騰、人手不足など苦境の外食業界において、安さとおいしさで人気を集めているのが、イタリアンレストランチェーン「サイゼリヤ」です。サイゼリヤは1500以上の店舗のうち、約3分の1を海外店舗が占めているなど、アジアを中心に、海外進出に成功していることでも知られています。 【図】マクドナルドの立地戦略...アウトカーブとインカーブ、どちらに出店しているのか? 国内で有名なチェーン店の多くが海外展開に苦戦しているなかで、なぜサイゼリヤはうまくいっているのでしょうか。2009年から2022年までサイゼリヤの社長を務めた堀埜一成さんの視点で解説します。 ※本稿は『サイゼリヤ元社長が教える 年間客数2億人の経営術』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)を一部抜粋・編集したものです。
裏路地の上海1号店からひっそりスタート
サイゼリヤの海外店舗は現在485店。その内訳は、香港を含む中国が432店、台湾21店、シンガポール32店です(2023年8月期)。海外出店は上海からのスタートで、2004年に1号店ができました。 そのときは、サイゼリヤ海外進出に私は直接タッチしていないのですが、それを推進したのは、私が味の素に勤務していたときの元上司で、私をサイゼリヤに誘ってくれた人でした。彼はもともと海外経験が長い人だったので、中国への展開は当たり前のように考えていたのかもしれません。 海外1号店が北京ではなく上海になったのは、おそらく、上海のほうがサイゼリヤ向きの立地が多いと考えたからではないでしょうか。サイゼリヤは雑踏の中こそふさわしいのですが、北京は立派な表通りばかりで、それらしい裏路地があまりありません。最初から賃料の高い一等地ではなく、一・五流や二流の立地から始めたいと考えていたサイゼリヤにとって、上海のほうが選択肢が多かったのではないかと思います。 とはいえ、記念すべき海外1号店の立地はひどすぎました。こんなに薄暗いところに本当にお客さまが来るのかなと思っていたら、案の定、ほとんど人は来ませんでした。はじめての海外出店ということで、当初は、サイゼリヤにしては高めの値づけをしていたのがよくなかったようで、オープン初日こそ地元の偉い人が来たり、獅子舞が踊ったりして賑わっていたものの、次の日から客足はまったく伸びなかったそうです。 そこで少しずつ値下げをしていったのですが、ちっとも反応はありません。店舗数は5店まで増えていきますが、どこも盛況とはほど遠い状況です。 最終的に、しびれを切らした会長の「ちゃんと値下げせえ」という鶴のひと声で当初価格の6割引き、7割引きまで一気に値下げしたところ、ようやくドカンと火がついた。お客さまが押し寄せて、入店待ちの行列が100メートルも並んだという話です。