仕事が好きなため、家事育児で余裕がないストレスから些細なことでイライラしてしまう39歳女性に、鴻上尚史が「母親として、幸せでいるべき」と伝えた真意
【鴻上さんの答え】 ひよこ丸さん。辛いですね。なかなか眠れない日々ですね。「週に数回徹夜して冷凍の備蓄をする日々」は、本当に大変でしょう。 「仕事ではどんなに変な人が相手でも、心のなかで毒づいていれば表面上ニコニコしていられたのに、育児ではそれができないことも情けなく思います」と書かれていますが、それは当たり前だと思いますよ。だって、仕事の場合は、どんなに嫌な人でも別々の時間がありますからね。 でも、子育ては、24時間一緒ですからね。常に向き合うわけです。嫌な商売相手と、24時間、一年間、一緒にいろと言われたら、耐えられる人はいないでしょう。 ですから、仕事がうまくいっていたのに、育児がなかなかうまくいかないのは当たり前のことです。育児には、「出直して考える」「相手のいない時にリフレッシュする時間を取る」「仲間と相手の悪口大会で盛り上がる」なんていう、ビジネス界で生きのびる生活の知恵が使えないですからね。 それから、「夫が出世したことは喜ばしいことのはずですが、私が足踏みしている間に追い越されてしまったという悔しさもあり」という感情も当たり前のことだと思いますよ。 夫といえども、職場ではライバルです。そのライバルに(自分のミスではないのに)先を越されたら、嫉妬するのは当たり前です。
大きな声では言えませんが、俳優同士の結婚が破綻する一番大きな原因は、このタイプの嫉妬です。愛して結婚したはずの相手が、自分を置いてどんどんと売れていく、有名になっていく。 おめでとうと言いたい、よかったねと言いたい、でも心の中に自分でも認めたくないけれど嫉妬の感情がある。この感情をなくそう、やめよう、祝福しようとする気持ちを持ち続けることに疲れた――これが、離婚の理由なのです。 この時、二人ともが同じ状態なら、何の問題もありません。お互い、ぐんぐん売れても、まったく売れなくても、そこそこ売れても、とにかくお互いの状況が同じなら、関係は続いていけるのです。 ひよこ丸さん。ひよこ丸さんの悩みは、僕から見ると、とても当然なことを「こんなことじゃいけない」と思っているように感じます。 仕事をする時には、責任感があって、ある意味完璧主義者で、丁寧な仕事ぶりが評判だったんじゃないかと勝手に想像します。 どんなに嫌な相手でも、仕事は最終的に数字に還元されます。そこで、仕事がうまくいったかどうか判断できます。それは、充実感を生むし、次の目標も見つかります。 でも、子育ては、数字に還元できません。数字で判断できないということは、合理的ではないということです。 私達は、ずっと、「がんばること」と「数字が上がること」が、(例外はもちろんありますが)イコールでした。頑張ればテストの点は上がるし、スポーツの記録は伸びるし、営業成績も上がりました。