年間入場者12万が5年で33万人に 愛知の水族館その秘策は?
愛知県蒲郡市にある同市竹島水族館の2015年度入場者数が、3月末時点で33万人超となり、記録が残る中では過去最高となった。5年前の年間入場者数の約12万人と比べると、倍以上の伸び。この5年間で行った改革には、費用を極力かけずに客を呼び込む数々の秘策があった。
お客さんが『つまらない』と言って帰っていった過去
同館が現在地で開館したのは1962年。延べ床面積は1079平方メートルで、県内にあって世界最大級とされる名古屋港水族館(名古屋市港区)の約40分の1という広さ。建物は蒲郡市が所有し、運営は市指定管理者に業務委託されている。正規雇用の飼育員など9人と、アルバイト・パート7人が業務に就く。常時およそ500種類、約4500匹の生き物を展示公開する。 単年入場者数が約12万人となった2010年度は、ベテラン職員の定年退職が相次いだ。そこで展示責任者となる飼育主任に起用されたのが、現館長の小林龍二さん(35)。「それまでの教えは『魚の世話をしっかりしろ』だった」と振り返る。 当時は「入館者数は関係なく、自分たちは好きな魚を見ていればよかった」という状態。しかし、客の様子をみて疑問を抱く。「自分は楽しいのに、お客さんは『つまらない』と言って帰っていく。他の水族館でお客さんの様子を見ていると、みんな楽しそうにしていたので、何か違うと思った」という。その違和感を拭い去るため、運営方法の見直しに着手した。
深海生物は地元漁師から直接買い付け
大きな改革は、飼育員の意識を変えたこと。魚の世話だけでなく来客対応にも力を入れて、客と会話して反応や要望を聞くようにした。小林さんと親交がある水族館プロデューサーの中村元さんの助言も生かした。 改革で象徴的なものは、2011年に設けたタッチングプール。客が魚に直接触れることができる水槽だ。冬季は深海生物で巨大ダンゴムシのような見た目をしている甲殻類のオオグソクムシや、長い脚が特徴のタカアシガニなどを、自由に触ることができる。 深海生物は、エビなどを狙って底引き網漁をする地元漁師から、直接買い付けている。漁師の間で深海生物は「(とれても)売り物にならない」とされるが、水族館の立場では「普段あまり見られない生物」と考えられるため、あえて展示した。すると、タッチングプールで深海生物を手にする子どもが喜び、その姿を撮影する親が増えた。 魚の解説プレートも改良。以前は外部業者に発注していたが、飼育員が説明文やイラストを手書きするようにした。小林さんは「ヘタウマなイラストや文字は、不思議と目にとまるらしく、よく読んでもらえる。内容も図鑑データではなく、『おいしい』『まずい』と書くことが多い」と笑う。客が気になる点を書いたことも、飼育員と客との親近感を作り出した。