【エビステーキカツ】もう二度と会えないかもしれない。所沢の定食屋の日替わりメニュー「エビステーキカツセット」に感動:パリッコ『今週のハマりメシ』第158回
見た目はイカフライのような縦長のカツで、きっと海老の身を叩いて成形し、揚げたものだろう。あまり突飛なメニューではなく、なんとなく想像していたものに近くはある。 ただ、その味は想像のはるか上をいっていた。大きさも厚みもあるカツの中身をみっしりと占めるのが海老で、つなぎはかなり最低限に感じる。また、海老の身がひとつひとつ大ぶりで、さくりと噛むと、口のなかでぶりんぶりんと踊る。その旨味や香りと、サクサクの衣の香ばしさがあいまって、すさまじくうまいぞ、これ。 たっぷりとソースをかけて白メシと合わせてみると、その味わいはさらにふわりと飛躍し、思わず昇天しかけた。えー、なにこれ。予想外の嬉しい出会いにもほどがある。ごはん、少なめにしなくてよかった~......。 添えられたタルタルソースは、まったりと甘めで具材がごろごろ。これと合わせてもまた、うっとりする美味しさだ。現時点でもう、完全に自分の大好物だ。エビステーキカツ! 充実の昼食を心ゆくまで堪能し、ホッピーのナカもおかわりし、ごちそうさまでした。もう思い残すことはなにもない......。と、言いたいところだけど、いや、あるある! ありすぎる! そう、このエビステーキカツ、日替わりの品だけあって、メニューのどこにも名前が載っていないのだ。つまり、こんなにも好きになってしまったのに、次にいつ、どうすれば会えるのかがわからない。 お会計時、店員さんに聞いてみる。 「ごちそうさまでした。美味しかったです。あの、エビステーキカツって、ふだんは出していないんですか?」 「はい。日替わりは本当に日替わりなので......」 うおー! つまりもう、二度とくるまのエビステーキカツは食べられない? 完全なる一期一会だった!? 充足感と失意を同時に感じながら、僕は帰路に着く。それでもあきらめきれないから、帰りの電車で「エビステーキカツ」と検索する。すると、くるまの情報は出てこなかったけれど、わずかながらその名前がヒットした。 さっき食べたものがそれだったかの確証はないけれど、「ヤヨイ」というメーカーが作る業務用冷凍食品のなかに、エビステーキカツという商品がある。見た目はだいぶ似ている。 そうか、よく考えたら、お店でいちから海老を叩いてこねて成形して揚げ、オリジナルのフライ料理を作ったとして、それをある日気まぐれに、しかもラーメンとのセットで出すというほうがおかしい。絶対に人気が出てレギュラーメニュー、いや、名物メニューになるに決まってるし。 つまり、あれは市販の冷凍食品を揚げた、手抜きというのではなくて、あくまで常連さんを飽きさせないための日替わりの1品だったと考えるほうが妥当だ。つまり僕は、かなり高い確率で、冷凍食品に大感激していたというわけだ。けれども本気でうまかったんだからそれでいい。常連さんへの想いに触れ、感動はむしろ強まったくらいだ。加えて言えば、観測した範囲内では、決して安いものではなく、あらためて定食の破格さに驚いてしまったくらいだ。 そして希望の光も見えてきた。情報を追っていけばまたいつか、エビステーキカツを食べることができるかもしれない! けどなぁ、やっぱりあの空間で、くるまのご主人が揚げたエビステーキカツが、また食べたいなぁ。 取材・文・撮影/パリッコ
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