【NBA】キャバリアーズのヘッドコーチとなったケニー・アトキンソン「選手には厳しく接するが愛情を持っていたい」
ドノバン・ミッチェルは契約延長という形で『信任』
NBAのヘッドコーチのポストは30しかなく、どのコーチもそれを目指して必死に努力を積み重ねる。ケニー・アトキンソンは2022年オフ、ホーネッツのヘッドコーチ就任が内定したが、それを辞退している。 ニックスとホークスで4年ずつの下積みを経てネッツのヘッドコーチを務めた彼は、解任された後にクリッパーズとウォリアーズでアシスタントコーチを務めた。ネッツでは再建チームを上昇気流に乗せたが、解任後に自らの仕事ぶりを振り返った時、「まだまだ足りないことばかりだ」と痛感したという。そして彼は「自分とは全く仕事のやり方が異なる」というタロン・ルーとスティーブ・カーのアシスタントを務め、自分のコーチングの幅を広げてきた。 ウォリアーズが優勝した年のホーネッツのオファーは辞退したが、今オフにキャバリアーズのヘッドコーチ採用面談を受けた際、彼は「是非やらせてほしい」と訴えた。「このチームには成功する条件が揃っている。ほんの少しだけ背中を押せば、大きな成功を収められる」と彼は言い、キャブズ首脳陣はそれを信じた。 現地7月1日、アトキンソンの就任会見が行われた。「これまでの挑戦を私が引き継ぎ、新しい挑戦をスタートさせる」と彼は言った。「素晴らしい選手が揃い、文化も定着している。私はそれを後押ししたい」 ホーネッツで求められたのはゼロからの再出発だった。真っ白なキャンパスに自分の好きな絵を描くのを好むコーチもいるだろうが、アトキンソンは違った。成功を収めるための条件を満たしながら上手く機能しないチームに手を入れて浮上させる。そういう意味で、キャブズは彼にとって『理想の環境』だった。 「このチームには4人のオールスターがいる」とアトキンソンは言った。エースのドノバン・ミッチェル、昨年の地元開催のオールスターに選出されたダリアス・ガーランドとジャレット・アレン。加えてアトキンソンに言わせれば「エバン・モーブリーが選ばれるのは時間の問題」だそうだ。ミッチェルとガーランドの2人のハンドラーを機能させ、アレンとモーブリーの2人のビッグマンを機能させる。そのポイントが改善できればキャブズは大きく飛躍できるとアトキンソンは信じている。 では、その方法論は──? アトキンソンは笑みを浮かべながらこう語る。「リーグは変化している。バスケのペースがものすごく速くなり、ビッグマン2人は機能させられないと思われているが、このチームにいるのはただ大きいだけの選手じゃない。ジャレットにはスキルがある。エバンにはその体格からは想像できない俊敏性がある。2人のビッグマンの特徴をどうやって効率の良いチームバスケに繋げるか、それを見いだすのが私の仕事だし、それが不可能だとは思わないよ」 そしてアトキンソンは「トップダウンのチームにはならない」と言い、コーチングスタッフや選手から出るアイデアを尊重し、それを取り入れるつもりだと語った。ネッツ時代の最大の反省は、ケビン・デュラントとカイリー・アービングの加入が決まった時点で、彼らがアトキンソンの排斥に動き、実際に解任されてしまったことだろう。当時の彼は選手を操りはしても、一緒にチームを作るコーチだとは思われていなかった。タロン・ルーとスティーブ・カーから学んだのは、選手とコミュニケーションを取りながら、一緒にチームを作っていく手法だ。 実際のバスケが形になるのはまだ先になるが、ただ一つ彼は「選手層を生かす」と宣言した。「このチームの選手層の厚みはリーグ屈指だから、それを生かしたい。ネッツでの3年目、1試合30分以上プレーした選手はいなかった。私は多くの選手を起用して、その成長を引き出しながら戦いたい。そのやり方はこのチームでも機能するはずだ」 ネッツ時代、そうやって台頭したのがジャレット・アレンだった。「私は彼にとても厳しく接し、高い要求を突き付けた。ただ同時に、どの部分で成長が見られるかは細かく伝えていたし、努力すれば彼が成功を収めると信じていた。選手には厳しく接するが正直でありたいし、そこに愛情を持っていたい」 ビッカースタッフは選手を最大限にリスペクトしたが、厳しさを欠いた。それがドノバン・ミッチェルを始め何人かの主力選手からは「物足りない」と見られた。後任のアトキンソンには、そのバランスを上手く取ってキャブズを次のレベルへと引き上げることが求められる。それでも、アトキンソンはすでに一つの大仕事を成し遂げた。ドノバン・ミッチェルが3年1億5000万ドル(約230億円)の契約延長に応じたのだ。エースの信任を取り付け、アトキンソン・キャブズは始動する。