視聴者の反応は「予想を超えた喜び」…大河ドラマ『光る君へ』制作統括が語る、紫式部や源氏物語のすごさ
柄本佑の緩急の付け方、吉高由里子の目の演技
──そのなかでもやはり、まひろ役の吉高由里子さんと、道長役の柄本佑さんの演技が、ドラマの人気を支えていると思います。 ご本人たちもおっしゃっていましたが、もともと芝居の相性が非常にいいんですね。まひろと道長が一緒にいるシーンって、実はそんなに多くないんですが、ずっと思いはつながっているということを、お2人とも自分のものとしてやってくださっているから、(2人がずっと一緒という)印象が強くなったと思います。 道長は今後、仕事で悩む男性の側面が強くなっていくんですが、柄本さんは公卿たち、妻の倫子(黒木華)、まひろの前で見せる顔がそれぞれ違うという工夫をされていますね。 ──その緩急の付け方が、柄本さんは本当に巧みです。一方吉高さんは、表情をロングでとらえる演出が多いという印象があるのですが。 まひろは身分が低いということもあって、どちらかというと表立って発言することが多くないんです。でもそんなときも吉高さんは、ハッとしたとか心配しているとか、感情がちゃんと目に現れる。その目の演技が素晴らしいので、自然とそうなっているのかと。道長のシーンが多くても、観ている人が主人公の気持ちでドラマを見られるようになっているのは、吉高さんのおかげかなと思っています。
紫式部の人物像はわからないからこそ、重層的に描ける
──ここにきて改めて「紫式部はこんな人だったのか」と発見したことはありますか? 『源氏物語』をちょいちょい読み直しているんですが、本当に現代にも通じる真理とか真実みたいなものが、物語の形で描かれていて。『源氏物語』のなかでも「物語には、そういう役割がある」って書いてあるんですよ。そういう視点を1000年前の女性が持っていたのが、すごいことだなあと思います。 ──まさしく先駆者ですね。 紫式部(の人物像)はわからないことが多いんですが、わからないからこそ・・・たとえば政治のことに悩む道長がいたら、式部はこう言ったんじゃないか? 彰子にはこうふるまったんじゃないか? その反面一人になったときは、こう考えたんじゃないか? みたいに、非常に重層的な人格で描ける人なんです。 清少納言も、ファーストサマーウイカさんがすごく魅力的にやってくださったんですけど、層の厚い人物という点では、紫式部が一番なのかなと思います。 ──視聴者の反応で、印象に残ってることはありますか? 一条天皇(塩野瑛久)が「『源氏物語』の続きを書いてほしい」というようなことを言ってきたときに、視聴者の方が「連載決定―!」って(笑)。道長が『源氏物語』の執筆に、強い力を持っていたのではないか・・・というので「いわば作家と編集者だね」と私どもは言っていたのですが、視聴者の方々も同じように取っておられたのが、非常に印象に残っています。 ──大量の紙を用意したり、物語の構想に一役買ったりと、道長の貢献は大きかったですよね。その「道長編集者説」から逆算して、まひろのソウルメイトという設定にしたのでしょうか? ソウルメイトにした理由の一つとして、彼が紫式部を「紫式部」たりえたことに、大きな役割を持っていたというのは、確かにありましたね。それがなくてもソウルメイトにしたかもしれませんけども、今思うと、やっぱりドラマのからくりとしては大きなことだったと思います。 道長がいたことで、貴族が「貴族」の枠組みの中で出世争いをするしかないという、あの時代のシビアなところもちゃんと出ているのではないかと。 ──たしかに「平安時代は本当は平安じゃなかった」と、認識を改めさせられました。今後、期待して見てほしいところはありますか? まひろと彰子との関係ですね。先生と生徒のような間柄だったのが、彰子が大人になるにしたがって、友情・・・というと、まひろの立場ではおそれ多いですけど、それに近い思いを抱いていけるのかな? と。彰子を励ましたり導くだけではなく、悩みを共有するというようなシーンも出てきます。