地元住民「寂しい」 統廃合の方針示された小鹿野警察署 地域の特色、「歌舞伎」や「秩父かぼす」生かし連携 「事件、事故の対応遅くならないか」「職員不足などで再編が必須であれば、致し方ない」との声
埼玉県警小鹿野署は、山に囲まれた自然と伝統文化が息づくまちの中心地に位置する。住民と触れ合い、地域に溶け込む活動に力を入れている署員は、これまでに数多くの町おこし事業や啓発キャンペーンを地域連携で進めてきた。秩父署との統合の方針が示され、地元住民は「お互いの距離が近く仲間のような付き合いをしてきただけに、なくなってしまうのであれば、寂しい」と肩を落とす。 襲いかかるクマ…花を摘む女性重傷、自宅敷地で午後3時に 目撃情報が倍増していた観光スポット周辺
地域の特産品「秩父かぼす」は、1996年に小鹿野署署長に赴任した武内英則さん(41~2019年)が住民に生産を提案し、栽培が広がったことで知られる。管内の農家で組織するJAちちぶカボス部会のメンバーらは昨年9月、秩父市吉田久長の道の駅「龍勢会館」の庭前に、武内さんを写彫した石碑を建立し、「カボス伝道師」の武内さんの功績をたたえた。秩父かぼすは、同署主催の交通安全キャンペーンの啓発品としても活用されている。 石碑の建立に深く携わった同部会会長の山口辰雄さん(72)は「縁が深い警察署なので、できれば残してほしい」と存続を望む。一方で、「担い手不足の影響で、各地では農協の合併が進んでいる。警察署でも同様に職員不足などで再編が必須であれば、致し方ないこと」と受け止める。同署が統廃合されることで、「事件や事故の対応が遅くなってしまうのではないか」との心配な気持ちもある。 小鹿野町の伝統芸能「小鹿野歌舞伎」と小鹿野署との関わりも深い。直近では、19年に同署で行われた全国交通安全運動の出発式で、地元の子どもたちが交通安全用に仕立てた演目「白浪五人男」を熱演し、署員のパトロールを送り出した。22年に企画した啓発用DVD制作では、津谷木子ども歌舞伎団が、歌舞伎の演目に特殊詐欺被害抑止のせりふを盛り込んだ演芸を披露し、「特殊詐欺 思い込むより まずまず確認すべぇ」などと、映像を通して住民らに呼びかけた。
同署と歌舞伎団の共演に10年以上関わってきた小鹿野歌舞伎保存会の堀口武治会長(83)は「秩父署に統合されてしまうと、各地の特色を生かした啓発キャンペーンの機会が減ってしまうのではないか」と不安視する。「たとえ体制が変わったとしても、駐在所の存続や、パトロール頻度の維持などに努め、犯罪や事故の少ない、安心して暮らせる地域づくりを共に進めてほしい」と話していた。 ■28年度目標に統廃合 県警、10月から住民説明会 埼玉県警は2028年度を目標に小鹿野署を秩父署に統合する方針を示している。夜間や休日の脆弱(ぜいじゃく)な体制や庁舎の老朽化が主な理由で、秩父署と統合することで対応能力の向上や人的、物的基盤を整備できるとしている。県警によると、県内の警察署の統廃合は初めてで、県警は10月から地域住民への説明会を開催し、来年には意見を募集する。 小鹿野署は小鹿野町と秩父市吉田地域(旧吉田町)を管轄し、署員定数は39人で県内最小規模。昨年の刑法犯認知件数や人身事故発生件数、110番受理件数も県内の警察署の中で最少だという。現在の庁舎は1971年に建築された。