【検証】国連はなぜガザ地区での女性と子供の死者数を下方修正したのか
ジェイク・ホートン、シャイアン・サルダリザデフ、アダム・ダービン、BBCヴェリファイ(検証チーム) 国連はこのほど、イスラム組織ハマスが昨年10月7日にイスラエルを襲撃して以降、パレスチナ自治区ガザ地区でのイスラエル軍の軍事活動で殺されたパレスチナ人の、女性と子供の割合を下方修正した。 国連は今月6日、公表されている死者数で女性と子供が占める割合は69%と発表した。その2日後、この割合は52%に修正された。 ガザ地区ではこれまでに3万5000人以上が殺されている。全体の死者数は変わらず、国連は、不完全な情報があったため修正が必要だったと説明した。 国連は現在、ハマスが運営する政府メディアオフィス(GMO)ではなく、ハマスが運営するガザ地区の保健省の統計を参考にしているという。 イスラエルのイスラエル・カッツ外相は国連のこの変化に注目。女性や子どもの死者数が少なかったことを「ガザでの死者の奇跡的な復活」と呼び、国連は「テロ組織の偽データ」に頼っていると非難した。 ■死者数はどのように記録されているか ガザ地区での死者数は、GMOと保健省、二つの異なる当局から、異なる方法で発表されている。国連はこのほど、死者数の内訳データの出典をGMOから保健省に乗り換えた。 開戦当時、保健省は病院で記録された死者数しか発表していなかった。一方、GMOの統計には昨年11月以降、「信頼できるメディア報道」で記録された死者数が含まれている。 保健省は最近になって、GMOと同様のメディア報道のほか、家族によってオンラインフォームから登録された死者数もデータに加えるようになった。 つまり、保健省は現在、病院での記録、家族による登録、「信頼できるメディア報道」の三つのデータを公表している。 身分証番号や生年月日といった情報がない記録については、保健省が発表する全体の死者数に含まれるものの、内訳には含まれない。 女性と子供の死者数は民間人の死者数を示していると解釈されることが多いため、激しい議論の的となっている。 イスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相は最近のインタビューで、ガザ地区では約3万人が殺されたとし、うち1万4000人が「テロリスト」で、1万6000人が民間人だと、証拠を示さずに語った。 戦争研究の専門家であるエリカ・チャーターズ教授は、戦時中に正確な犠牲者数を記録することは困難なため、数値がばらけることはよくあると述べた。 たとえばイスラエル当局は当初、昨年10月のハマスの襲撃の犠牲者を1400人と発表していたが、後に約1200人に下方修正した。 イスラエル当局はこの時、焼死体の身元特定に誤りがあったと説明していた。 ■国連はなぜアプローチを変えたのか ガザ地区での死者数における女性と子供の割合について、GMOは一貫して保健省よりも高い数値を発表してきた。 国連は今月6日、全体の死者数を3万4735人と発表。GMOのデータを引用し、うち女性が9500人、子どもが1万4500人とした。 その2日後に発表された追加報告で、国連は典拠を保健省に切り替えた。 これにより、全体の死者数はほぼ変わらない3万4844人だったものの、うち女性は4959人、子どもは7797人と、どちらも大きく減った。 この違いは、不完全な情報で登録された個人が、内訳のデータには含まれていないために生まれている。 GMOは、この紛争で殺された女性と子供の割合は、全体の7割ほどだとしている。 一方、国連の最新の報告書では、身元が完全に特定されている2万4686人について、女性と子供が52%、女性が40%、そして「高齢者」が8%となっている。 この「高齢者」というカテゴリーには性別が示されておらず、どの年齢を指すのかも明らかではない。また、子供をどのように定義しているのかも不透明だ。 BBCは、保健省が公表している詳細データを独自に分析。その結果、記録されている死者数の52%が女性と子供(18歳未満)となった。さらに、男性は43%、年齢や性別などの情報が不足している「不明」は5%となった。 GMOのデータと保健省のデータを一致させようとすると、保健省のデータで身元が完全に特定されていない1万人のほぼ全員が、女性と子供である必要がある。 戦死者調査を専門としているマイケル・スパガット教授は、「これは論理的に不可能ではないが(中略)信憑性(しんぴょうせい)に欠けるものだ」と指摘した。 BBCはGMOに対し、なぜ死者数における女性と子供の割合が保健省のデータよりはるかに大きいのかを尋ねたが、この不一致について直接的な回答は得られなかった。 BBCは保健省にもコメントを求めている。 スパガット教授はBBCに対し、ガザ地区の死者数は戦争が始まってから6カ月という期間に対して「とてつもなく高い」と指摘。病院で記録・確認された死者数だけでも、戦争前の人口240万人の約1%に当たると述べた。 出典の変更理由について、国連の報道官はBBCに対し、これまでは保健省が女性と子供の死者数を出していなかったため、内訳でGMOのデータを使っていたと説明。 「ガザ地区の保健省が、より包括的で、名簿による確認が取れる内訳を発表したので、国連の報告書も代わりにこのデータを反映した」 報道官はさらに、どちらの当局の数値も出典があり、国連が「現時点で独立したデータ確認ができない」ことを明確にする「しっかりとした注釈」が加えられていると述べた。 国連は先に、ガザ保健省とは「長年の協力関係」にあり、これまでの報告は信頼性が高く「よく練られたもの」とみなされていると述べている。 データ分析:ロブ・イングランド、ダニエル・ウェインライト (英語記事 Gaza war: Why is the UN citing lower death toll for women and children? )
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