「国境通信」農園の候補地を下見 タイ人の地主に不審者と間違われる 川のむこうはミャンマー~軍と”戦い続ける人々の記録#3
横はタイ軍の訓練場「ここなら絶対に空爆されないセーフゾーン」
農園候補地に着いた。すぐ横はタイ軍の訓練場のようだった。正規の入国手続きなどを経ずにグレーな立場でタイに入国している彼らにとっては不安になる場所ではないだろうか、と心配になったが、アインは「ここなら絶対に空爆されないからセーフゾーンだな、ははは」などと冗談を言っている。確かに、ミャンマー軍とタイ軍との関係は特殊で、国際社会の手前、タイ軍はクーデターを擁護することこそしないが、裏ではさまざまな利権で繋がっているとされ、表立ってミャンマー国軍を批判することもない。要するにタイ軍としてはミャンマー情勢からは距離を置きたいというのが本音で、キャンマー国軍にも「タイ側には迷惑をかけない」というのが暗黙の了解としてあるように見える。そうした事情を考えると、確かにここは問題の起きにくい場所だと言えるかもしれない。
ミャンマー側で繰り返される空爆
アインが「空爆」という言葉を使って冗談を言ったのには背景がある。国境地帯のミャンマー側では、現実に国軍が避難民が暮らすエリアを狙った空爆を繰り返しているのだ。少数民族武装勢力を含む反軍勢力は、実は地上戦では優勢だという分析もあり、「国軍のある部隊が〇〇から撤退した」といった情報が聞こえてくる。しかし、国軍が地上戦で劣勢になると、装備の面で優位に立つ空軍部隊を使って報復の空爆を激化させる、という流れがお決まりの構図となっていた。そういう意味では、国軍の劣勢を手放しで歓迎するわけにはいかない、とも思う。なぜなら国軍による空爆では、戦闘とは無関係の避難民の居住エリアが狙われるため、女性や子供、高齢者に多数の死者や負傷者が出てしまうのだ。現在の情勢はまさに反軍勢力が攻勢を強めていて、それだけ軍の空爆も激しくなり、連日のようにその被害が伝えられている。
エリアの治安悪化「お前たちは誰だ?どこから来た?」
キンが案内してくれた場所は、確かに小川が流れていて開けた場所ではあったが、そこにたどり着くには、車を降りてからジャングルの道なき道を進まなくてはならなかった。農作物が栽培できたとしても、輸送に課題がありそうだ。そもそも、この場所を開墾するのに必要なトラクターなどの重機はどうやって運び込むのだろう。「マンパワーでやるしかないよ。あとは少し火も使って焼くことになるかもしれない」とキン。しかしこの場所の難しさはアインも感じているようで、2人でああでもないこうでもないと議論している。 すっきりとうまく行きそうな場所はそうそうないんだな、と改めて感じながら車まで戻ろうと歩いていると、小川のあたりにタイ人の家族連れのようなグループがいて、涼んでいた。父親らしき男性が、我々を見つけると突然立ち上がり、強い口調で「どこに行ってたんだ?」と問い詰めてきた。「そこの土地を見に・・・」説明しようとしても遮られ、「違う、お前たちは誰だ?どこから来た?」とタイ語で捲し立てる。どうやらこの土地のオーナーらしい。「彼らはミャンマー人で、農業をやろうとしていて・・・」拙いタイ語で何度も伝えると、はたと思い出したようで、「ああ、この前土地を借りたいって話をしていた人?」と急にフレンドリーに。そして「お前は何人だ?日本人?俺は日本人が大好きなんだ。アリガトー」と調子がいい。さっきまで不審者扱いしてたくせに、と白けた気持ちにもなったが、話を聞くと最近この付近で泥棒騒ぎがあったのだという。 ミャンマー側での戦闘激化、繰り返される空爆によって、国境を越えてタイ側に逃れる避難民が増加しているという話は耳にしていた。タイの地元メディアの中には、エリアの治安悪化を伝えるものもある。そういった情勢もあって警戒しているのかもしれない、と考えると彼の態度も理解できた。 車に戻り、アインを彼の農園まで送り届けた。車の中では2人とも口数少なく、静かな帰り道だった。 (エピソード4に続く) *本エピソードは第3話です。