JAL、リブレット塗装の787-9公開 サメ肌で国際線の燃費改善検証
日本航空(JAL/JL、9201)は1月10日、サメ肌の構造を模して燃費を改善する「リブレット」を塗装した国際線機材ボーイング787-9型機(登録記号JA868J)を羽田空港の格納庫で公開した。JAXA(宇宙航空研究開発機構)と塗料関連事業を手掛けるオーウエル(7670)の3者共同の取り組みで、燃料消費量を年間約119トン、CO2(二酸化炭素)排出量を同381トン削減が見込まれ、1月中旬の就航を予定している。 【写真】リブレットを施工したJALの787-9 ◆重量増加なく型式証明も不要 3者によると、787へのリブレットの実装は初めて。リブレットを塗装した機体が国際線に投入されるのも初となる。3者の実証実験は、737-800の国内線仕様機(登録記号JA331J)を使い、2022年7月にスタート。10日にお披露目した787-9は、2024年12月から今年1月までリブレット塗装の作業が羽田で行われた。リブレット塗装のみの作業期間は最短で約2週間だが、ほかの整備作業も同時に行われることが多いため、JALではおおむね1カ月以内の工期を想定している。 JAXA航空技術部門の神田淳・航空環境適合イノベーションハブ長によると、サメのうろこにヒントを得たリブレットの研究は1970年代から始まり、既存機にも適用できる点がメリットだという。飛行中に起こる気流の小さな渦が機体に接触すると摩擦抵抗になり、燃費が悪化するが、リブレットを実装すると機体表面から離れたところに渦が形成され、機体に渦が接する部分を減らすことで摩擦抵抗を抑えられ、燃費改善につながるという。 JALが100%出資する整備会社JALエンジニアリング(JALEC)で、リブレット塗装に携わる緒方隆裕氏によると、航空機にリブレットを施工する場合、塗装とフィルムの貼付があるという。塗装による施工は、重量増加がほとんどなく、はがれ落ちるリスクがないものの、熟練の塗装スキルが必要になるといった課題がある。一方、フィルム施工は作業はしやすいものの、フィルム分の重量増加や、フィルムの接着が不十分な場合にはがれるリスクがあるといい、都心上空通過ルートなどを勘案して、塗装による施工を選んだ。 リブレットが塗装により施工された部分は、光の反射率が変わることからデカールを貼ったように色合いが異なる。また、独ルフトハンザ テクニックが開発したリブレット加工フィルム「AeroSHARK(エアロシャーク)」の場合、機体の安全性を証明する「型式証明」を取得する必要があるのに対し、リブレット塗装は取得が不要。JALによると、多くの機種に展開しやすい点も塗装による施工のメリットだという。 ◆水溶性シートでリブレット転写 今回のリブレット塗装は、787-9の胴体の約30%にあたる部分に実施。737-800も同じ施工方法でリブレット塗装を行ったが、機体前後の下部のみ。一方、787-9は胴体上部まで施工面積を拡大した。 施工方法は、オーウエルとJAXAが共同開発した「Paint-to-Paint Method」を採用。既存の塗膜上にリブレット形状を形成するもので、水溶性シートを貼り付けて機体の塗膜上にリブレット形状を転写し、水でシートを洗い流すとリブレット形状が完成する。 リブレットの寿命は機体塗装の塗り替え目安となる8年から10年程度を見込む。緒方氏によると、先行して耐久性などを検証している737-800では、今のところ目立った劣化はみられないという。 今回のリブレット塗装では、巡航時の抵抗低減率が0.24%となり、成田-フランクフルト線の年間燃料消費量を基に計算すると約119トンの削減となり、400回程度飛行すると1回分の燃料を削減できる規模を想定。CO2排出量は年間約381トン削減する見込みで、スギの年間CO2吸収量に換算すると約2万7000本分に相当する。 3者によると、今後は耐久性や美観、長距離国際線を実際に運航した際の燃費削減効果を検証。施工範囲の拡大などの検討を進めていく。
Tadayuki YOSHIKAWA