『スカイキャッスル』はママ友版パワーゲーム 『名前をなくした女神』『夜行観覧車』と比較
むしろオフェンス、ガンガン攻める主人公
さて、『スカイキャッスル』に話を戻そう。このドラマがご近所のドロドロやママ友同士の競争を描きながら、先の2作と圧倒的に異なるのは主人公がディフェンスではなくオフェンス側の人間である点だ。 主人公の紗英(松下奈緒)は肉親が逮捕され施設で育ったことや、過去に名前を変えたこと、出身大学などすべてのプロフィールを偽り脳外科医の浅見(田辺誠一)と結婚し、超高級住宅地・スカイキャッスルで華やかに暮らしている。彼女の目下の目標は長女を帝都医大に合格させること。そのために紗英は合格請負人の講師・九条(小雪)と3000万円で契約まで交わす。 そんな紗英の前に現れたのが、謎を残して自死した友人・香織(戸田菜穂)一家が暮らした家に越してきた南沢家だ。小説家でもあるこの家の主婦・南沢泉(木村文乃)はかつて紗英が暮らした施設の運営者の娘。泉は他の住人の前で施設の話や紗英の昔の名前を持ち出して彼女を動揺させる。 先の2作では主人公が新しい環境に飛び込み、そこで出会ったママ友やご近所さんとの人間関係に悩みながら、受け手(=ディフェンス側)として問題をクリアする展開であったが『スカイキャッスル』は違う。 紗英は長女を志望大学に合格させるためなら姑の前で土下座もするし、娘のライバルを蹴落とすために汚い手も使う。そもそも子どもの頃からの彼女の夢は絵本で見た“スカイキャッスル”で暮らすことで、さまざまな策略でその夢を現実にした。そんな目的のためなら手段を選ばずつねに攻めの姿勢を貫く紗英の存在を脅かすのが彼女の過去を知る泉である。小学生時代、同級生の前で紗英の親が逮捕されたことを彼女を庇うテイで喋ったり、スカイキャッスルの住人の前で紗英がもっとも隠そうとしている施設の話をいきなり持ちだすなど何ともいえない曲者感がある。泉もディフェンス側ではないらしい。 昨今、女性同士の関係性を描くドラマのひとつのキーワードがシスターフッドやバディといった“連帯”だが、本作『スカイキャッスル』は現状、不倫以外は何でもアリ、弱肉強食のママ友版パワーゲームだ。 目的のためなら手段を選ばない鉄の意志を持った紗英と、どうやらまだ爆弾を隠し持っているらしい泉。オフェンス×オフェンスのパワーゲームはどんな結末を迎えるのか。この戦いも今夏の猛暑に負けず劣らずアツい。
上村由紀子