草野翔吾 監督が語る 素敵な役者さんたちが集まってそのまま自然体で演じてくれた『アイミタガイ』
人との縁、過去からのつながりが創り上げた『アイミタガイ』
池ノ辺 撮影は順調だったんですか。 草野 特別に大きな問題はなかったと思います。 池ノ辺 撮影は地方ロケが多かったんですね。皆さんで一緒にご飯を食べたりとか? 草野 僕はそこまでの余裕はなかったんですが、黒木さんはいろいろ美味しいものを食べたと言っていましたし、衣装・メイク部のスタッフたちは、街の居酒屋さんとものすごく仲良くなっていて、撮影が終わって帰る時など「またきてね~」って見送られていました。他のスタッフやキャストの皆さんも、みんなで一緒にというよりそれぞれで楽しんでいたんじゃないかと思います。 池ノ辺 じゃあスタッフの方たちも、今回の撮影はとてもいい雰囲気だったんでしょうね。 草野 だったと僕は思っています。今回は、今まで一度一緒にやったことがある方で、もう一度一緒に仕事をしたいと思っていた方に声をかけたんです。初めてではない。自分で声をかけたスタッフだけでやるというのは、目標にしていたことで、今回初めてそれが実現しました。雰囲気がよかったのはそんなこともあると思います。 池ノ辺 この映画は「アイミタガイ」がテーマですが、監督ご自身が「アイミタガイ」を感じた経験ってありますか。 草野 いや、その質問は絶対にされますよね(笑)。 池ノ辺 今までに何回も同じことを聞かれました? 草野 いえ、違うんですよ。絶対、今の質問っていちばんいい質問じゃないですか。でも初めて聞かれたんです。「そうだよな、なんで考えてこなかったんだろう」と、今その質問がずっとぐるぐる頭の中を回っているんですけど、何も出てこないんです。確かに、この映画を撮っている時、キャスティングにしろスタッフのことにしろ、何かすごく不思議な縁が動いているような気はしたんです。ただ、「アイミタガイ」という言葉は、この映画の中では、「誰かを想ってしたことは、気がついてないだけで巡り巡って見知らぬ誰かをも救い、やがて自分のもとに返ってくる」と説明されています。だからすぐには気づかないようなことなんじゃないかと。逃げみたいな答えですが、今、ちょっと思ったりしています。 池ノ辺 長い人生の中で、時間が経った時に、「あれはこういうことだったのか」とわかるんでしょうか。 草野 それはあるような気がしますね。そしてこの映画が、そんなことに気づくきっかけになればいいなと思っています。もっとも、映画を作ってお客さんに観てもらうということ自体、何かが動くきっかけになると思うし、それを言えば、僕が今、この映画を撮らせてもらったのも、過去に撮った作品があって、そこからつながっている。そんな巡り合わせとかつながりは日々ものすごく感じているんですが、この質問に対するバチっとした答えが本当に出てこないんです。あまりに核心をついた質問で(笑)。 池ノ辺 初めてじゃないスタッフの方々と、というのもきっとそういうつながりですよね。でも、そんな大変な質問のつもりはなくて、何か監督の個人的なエピソードを聞きたいと思ったんです(笑)。 草野 そういう意味で言えば、今回の映画は、もちろん梓という主人公らしき存在があるんですが、かなり群像劇に近いテイストのものだと思うんです。僕は学生映画出身で、その頃から群像劇を多く撮っていました。学生時代の最後に撮った映画も群像劇スタイルで。大杉漣さんが出てくださったんですが、それを自主上映した時に、田口トモロヲさんが観に来てくださったんです。すごく嬉しくて、それ以来ずっとご一緒したいと思っていたんですが、なかなか実現しなかった。今回それがようやく実現して、それも群像劇で、というのは、なにか巡り巡った縁を感じてはいます。 池ノ辺 その話は、トモロヲさんにはされたんですか。 草野 お話しました。覚えていてくださったので、嬉しかったです。「俺は俺だけで、1人で生きていくんだ」と信じて生きている人は違うかもしれませんが、どんな時代であれ人が生きていくというのは、誰かとどこかで関わり合いながら生きていくわけですよね。そんな中で「アイミタガイ」みたいなことは必ずあって、でもそこにはなかなか気づけない。そこに言葉を与えて名付けて、生きる上での心構え、解像度が高くなるようなおまじないの言葉、僕は「アイミタガイ」に、今はそんな印象を受けてます。 池ノ辺 最後になりましたが、監督にとって映画とは何ですか。 草野 自分にとっての映画は、どこかまだ遊びの延長です。子どもの頃からいろんな遊びをしてきましたが、唯一飽きていない遊び。いまだに、初めて学生映画を撮ったその1本目の時と同じくらいか、むしろそれ以上に楽しく夢中になれることだと思っています。 池ノ辺 そんな楽しくて大好きなことを、いろんな人に観てもらえるというのは素晴らしいですよね。 草野 本当はもっと観てもらうということを意識しなければいけなくて、遊びとか言ってる場合ではないのかもしれないですが、やっぱり、まずは自分の心が動かないといけないとも思います。そこは変にプロぶらないで、純粋に映画に関わるということを楽しみながら、でも真剣に考えながらやっていけたらいいなと思っています。 池ノ辺 これからも応援しています。
インタビュー / 池ノ辺直子 文・構成 / 佐々木尚絵