台湾語?それとも閩南(びんなん)語?…台湾で巻き起こる名称論争
すなわち、使われてきた言葉の能力検定試験の名称がこれまでどおり、閩南語なら、「中国福建省の方言」という認識で、中国サイドも許容できる。それが、正式に「台湾・台湾語能力検定試験」に変わってしまうと、民進党政権がさらに、独自路線を進めている、と受け取るだろう。 今回の検定試験の名称変更計画。頼清徳総統をはじめ、民進党政権も、やはり「中国離れ」を目指そうという思惑が当然あると思う。政府が実施するテストの名称変更によって、2300万いる台湾の人たちに、「自分たちが日常的に使っている言葉は、閩南語(=中国福建省南部の言葉)ではない。台湾語(=台湾独自の言葉)だ」という意識を植え付けた思いがあるはずだ。 ■台湾の中でも別の摩擦になる危険性 それに対する反発で中国からの圧力は日に日に強くなっている。単に名称の問題にとどまらない、と。民主化されて以降、台湾では「自分たちはいったい、どのような存在なのか」という論争が繰り返されてきた。「中国人なのか、台湾人なのか。はたまた、どちらでもあるのか?」。言葉はやはり、それを用いる人、一人ひとりのアイデンティティを、映し出しものだと思う。 先ほど紹介したように、台湾は19世紀までに、中国大陸からの移住者を祖先に持つ人たちが主体だ。ただ、日本のあとに支配者になった国民党とともに、中国各地から渡って来た人もいる。彼らは基本的に閩南語(=つまり台湾語)を話さない。現在の中国標準語をベースにした言葉を話す。このほか、少数民族はそれぞれ独自に言語を持つ。言葉が表すアイデンティティが、背景やルーツによって、大きく異なる。 台湾で使う言葉の能力検定試験の名前を、閩南語から台湾語に変更しようという動きは、台湾と中国の間の摩擦になるだけではない。台湾の中でも、それぞれが持つアイデンティティを改めて呼び起こす要素になり、議会での論議のように、人々の間で、別の摩擦になる危険性も持っている。台湾の人々が日々、使っている言葉を巡る話。それは、台湾社会の複雑さも映し出している。
■◎飯田和郎(いいだ・かずお) 1960年生まれ。毎日新聞社で記者生活をスタートし佐賀、福岡両県での勤務を経て外信部へ。北京に計2回7年間、台北に3年間、特派員として駐在した。RKB毎日放送移籍後は報道局長、解説委員長などを歴任した。
RKB毎日放送