文化勲章受章した「ちばてつや」の偉大な功績 引用されまくった「まっ白に燃えつきた」あの名シーン
■『カイジ』の福本伸行は「ちばてつや賞」出身 先日デビュー50周年&『アイドルを探せ』40周年記念として初の原画展を開いた吉田まゆみも『総特集 吉田まゆみ』(2024年)のインタビューで「やっぱり“ちばイズム”には染まってます」と語る。この「ちばイズム」という言葉は『カイジ』シリーズで人気の福本伸行も口にしていて、「『カイジ』にしても『アカギ』にしても、“ちばイズム”と言ったら何ですけど、やっぱり主人公は絶対裏切らないとか、人を殺したりしないとか、そういう温かさというか健全さというか、そういうものが根底にある」と述べていた(前出『総特集ちばてつや』)。
福本伸行は「ちばてつや賞」出身。この賞は、単にちばてつやの名前を冠しただけでなく、最終候補作をちばてつや本人が読むことで知られる。「ちば先生に読んでもらいたい!」という動機で応募する作家も多く、きうちかずひろ、さそうあきら、望月ミネタロウ、岩明均、山田芳裕、新井英樹、すぎむらしんいち、ハロルド作石、きらたかし、原泰久、野田サトル、コウノコウジ、こざき亜衣、池田邦彦、山本崇一朗など、錚々たる面々を輩出している。次代の才能を見出すという意味でも、マンガ界への貢献度は高い。
なぜ、ちば作品はこれほど愛されるのか。どこがすごいのか。 まずは、大友克洋も参考にしたというコマ割り、構図の巧みさ。人物の位置関係、誰がどこにいて何をしているのかがひと目でわかる俯瞰(上から見下ろす視点)の構図を随所に織り込み、コマ割りで動きを見せる。手描きのマンガならではの独特のパース(遠近図法)で、人間の視野に近い自然な空間を作り出す。学園マンガ『おれは鉄兵』(1973~1980年)で主人公の鉄兵が仲間たちと寮の部屋から食堂に向かう場面などはその典型だ。
空撮のような大都会・東京のビル群から、うらぶれた下町を歩くジョーの姿へとズームインしていく『あしたのジョー』のオープニングもまた名シーンとして語り継がれている。ジョーのプロテスト合格を祝おうとドヤ街の人々が集まって宴会をする場面では、画面の隅っこのモブキャラまでが生き生きと描かれているのに驚かされる。 しかし、そうした作画技術やストーリーもさることながら、ちば作品が愛される最大の理由は、やはりキャラクターにあるだろう。ジョーにしても鉄兵にしても、『のたり松太郎』の主人公・松太郎にしても、決して優等生ではない。というより、悪たれでダメな部分のほうが多い。そんな“はずれ者”たちを、愛情を込めて描く。