文化勲章受章した「ちばてつや」の偉大な功績 引用されまくった「まっ白に燃えつきた」あの名シーン
朝日新聞夕刊連載の4コマ、しりあがり寿『地球防衛家のヒトビト』では、2010年4月5~7日の3回連続で、新入社員が厳しかった就職戦線を思い起こして燃えつきてしまう。2019年にドラマ化された丹羽庭『トクサツガガガ』では、ジオラマ作品の個性について苦悩するモデラーが主人公の何げない一言でまっ白な灰になった。 ほかにも、作:大場つぐみ・画:小畑健『バクマン。』、しげの秀一『頭文字D』、のりつけ雅春『マイホームアフロ田中』、とよ田みのる『これ描いて死ね』など、同様のシーンが登場する事例は枚挙にいとまがない。筆者が現時点で把握しているだけでも60近くの作品で、いろんなキャラがまっ白に燃えつきている。
つまり、それだけ多くの漫画家が、あのシーンを「誰もが知るマンガの基礎教養」として頭の引き出しに入れているということだ。読者の側も(実際に読んだことがなくても)知識としては知っている。名作と呼ばれるマンガは数あれど、ひとつのイメージがここまで広く共有されている例は、ほかにあるまい。 もちろん、ちば作品がマンガ界に与えた影響は、そんなワンシーンにとどまらない。キャラクター造形、セリフ回し、背景描写、コマ割りや構図といったマンガ表現の根幹の部分を、ちば作品から学んだという作家は多い。
『AKIRA』などで世界的に知られる巨匠・大友克洋もその一人。『文藝別冊 総特集ちばてつや』(2011年)収録のインタビューで、ちば作品のセリフやコマ割り、構図の巧みさを絶賛している。自身の勉強のため、ちば作品のコマ割りをトレースしてみたこともあるという。 影響レベルではなく心酔しているのが江口寿史だ。同じ『文藝別冊 総特集ちばてつや』の寄稿で、あふれんばかりの“ちばてつや愛”を吐露している。自身の作品の中でも『あしたのジョー』のパロディを何度も登場させており、例の「まっ白に燃えつきた」シーンなんてソラでそっくりに描けるに違いない。