有村昆が2024年の個人的洋画1位を発表「今年はシリアスな作品に良作が多かった」
リドリー・スコット監督はことし86歳
そして第2位は、あえて静かなトーンの『関心領域』を選びました。これは衝撃的な作品でしたね。正直にいえば、最初の30分くらいは観ててつまらないなと思ってたんですよ。あるドイツ人家庭の日常を淡々と描かれていくだけで、特に何も起こらない。でも、なんとなく不穏というか、「ん?」という違和感が漂っているんですね。それが後半の展開で、ぜんぶ前フリだったんだと気づかされていく。ドイツ人たちが、楽しそうにプールで遊んでた壁の向こうで何が起こっていたのか。将校の奥さんが毛皮のコートが欲しいと言って、旦那さんがプレゼントするんですけど、そのコートはどこから調達したのか。 観ていると途中からピンと来て、点と点が繋がっていく。その構成がすごくよく出来てましたね。まさに関心の領域がないと気づかないことを描いている。たまに聴こえていた「タンタンタンタン」という乾いた音は、そういう意味だったんだ、とかね。 ラストの演出もすごくて、扉を開けると現代の、とある場所に繋がっているんです。僕は寺山修司の『田園に死す』のラスト、壁が倒れていったら新宿のど真ん中だったという、あのシーンを連想しましたね。 あの戦争で起きた悲劇を描いた映画はたくさんありますけど、それをまったく新しいアプローチで、恐ろしくも考えさせられる作品に仕上げたというところを評価したいですね。 さぁ、2024年アリコンの個人的洋画ランキング第1位は『グラディエーターII 英雄を呼ぶ声』です! まだ公開されたばかりの新作なので印象が強いというのもありますけど、これは圧巻でしたね。 前作のラッセル・クロウが主演した『グラディエーター』の公開が2000年。僕はそのころ社会人1年目くらいで、当時は「むさしのFM」というコミュニティ局で朝の番組をやっていたんです。スタジオが吉祥寺にあるんですけど、その収録が終わってから独りで歩いて映画館に行って観たのを覚えてます。本当に感動して、胸が高鳴って、リドリー・スコット監督は凄いなと関心したんですよね。それから24年も経って、まさか続編が作られるとは思ってもみなかった。リドリー・スコットはジョージ・ミラーよりも年上で、ことし86歳ですよ。しかも、早撮りで作品を量産していて、今年は『ナポレオン』も公開されている。精力的すぎますよ。 『グラディエーターII』は、前作よりもさらにスケールアップしていて、大迫力の合戦シーンやコロシアムでの闘いもより激しくなっています。闘技場の中に水を張って、巨大な船を浮かべて海戦を模した対決をするんですけど、調べてみたら、本当にローマ時代にやっていたらしいんですよね。当時のローマ人は普通の殺し合いじゃ満足しなくなっていて、様々な趣向が凝らされていった。紀元前の頃のから、エンタメの世界は過激化するしかないってことですね。 それに加えてストーリーがアツい。前作はローマ帝国の将軍だったマキシマスが、濡れ衣を着せられて奴隷まで落ちぶれて、そこから這い上がって剣闘士になって、ホアキン・フェニックス演じる皇帝に立ち向かう、という話でした。 今作も、流れだけいえば前作を踏襲したような物語になっています。ヌミディアという辺境で暮らしていたハンノという青年が、アカシウス将軍率いるローマ軍の侵攻で敗北し、奴隷となってマクリヌスという男に買われる。やがてハンノは剣闘士となり、コロシアムで戦う剣闘士となります。 そして、前作ではマキシマスの恋人だったルッシラは、アカシウス将軍と再婚していて、反乱を起こそうとしている。そしてハンノは、ルッシラの息子のルシアスだったことが判明するんです。この、前作の登場人物と時間の経過を活かしたドラマが実によくできている。 ルッシラを演じたコニー・ニールセンも前作から続投してますが、キレイでしたね。狡猾なマクリヌスを演じたデンゼル・ワシントンも、インテリヤクザみたいな雰囲気で凄い演技を披露しています。物語も映像も圧倒的で、まさに映画という風格にある作品でした。 こうしてベストテンに挙げた作品を振り返ってみると、今年はちょっとシリアスな作品に良作が多かったかもしれないですね。それにリドリー・スコットやジョージ・ミラーといった重鎮の監督、俳優ならデンゼル・ワシントンなどのベテラン勢の活躍が目立ちましたし、まだまだ血気盛んといった感じで頼もしかったです。 【前編】有村昆が2024年洋画ベスト10を発表、『ナポレオン』を観てリーダー不在の日本社会を考えたは下の関連記事からご覧ください。
ENTAME next編集部