なぜ経営難に陥る「神社」が増えたのか? 神社本庁システムの“限界”に迫る
神社の観光スポット化、海外の例も
神社の境内に地域の観光案内所を設置し、スペースに余裕があれば地域の野菜や特産品を販売したり、レストランも併設したりする。場合によってはイベントなどで「貸切」や、宿泊施設としても開放するのだ。 もちろん、収益を上げた分は宗教活動ではないので、しっかりと課税する。明治神宮のように不動産関連の収入があるような神社はそちらに頼ることができるが、それができないところは「観光での稼ぎに頼る」しかないのではないか。 「神聖な神社を、マナーの悪い観光客が土足で踏み荒らすような場所にできるわけがないだろ!」という痛烈なお叱りが飛んできそうだが、世界では神聖な場所を「観光スポット」としてブラッシュアップすることで保護するのが主流だ。 例えば、エジプトのピラミッドだ。 ご存じのように、あの遺跡は人類共通の財産であると同時に、エジプト人にとっても神聖な場所だ。しかし、つい最近、そこを有名YouTuberが貸し切った。 世界一のチャンネル登録者数を誇るYouTuberのMrBeast(ミスタービースト)氏は、エジプト政府の協力のもとクフ王の大ピラミッドを貸し切って、中で一泊して幽霊探しをしたという。 世界遺産の私的利用は、これが初めてではない。2024年初頭には、テック起業家と元プロレスラーが結婚式を行うためにピラミッドとスフィンクスを1週間貸し切り、一般公開を中止している。 このような話を聞くと、「エジプト人はピラミッドを金もうけの道具くらいにしか考えてないんだな」と勝手に日本人のモノサシで考えてしまいがちだが、そうではない。これがピラミッドという神聖な場所を守るためにベストな方法だと考えているからだ。
人口減の日本では待ったなし
かの国に行ったことがある人は分かるだろうが、エジプトはそこかしこに遺跡だらけだ。これを全て税金によって発掘、修復、保全などをすれば、すぐに財政は破綻する。 エジプトは日本のように「お金がないのなら赤字国債を発行すればいい」という理屈は通らない。そこでどうするのかというと、「観光」だ。 例えば、エジプトのアフメド・イッサ観光大臣は2023~24会計年度で、歴史遺産の維持・修復に約30億エジプト・ポンド(9700万ドル)の予算を設定。これを「アトラクションの入場料による収入」で賄(まかな)うと述べている。つまり、遺跡や博物館の入場料、土産物、そして前述したような「文化財の貸切」である。 これはエジプトだけではない。フランスではベルサイユ宮殿が貸し切りをしているし、スペインのアルハンブラ宮殿も貸し切りはできないが宿泊ができる。日本でも二条城などが国際会議場として貸し切りをしている。もちろん、ここのもうけは私腹を肥やすためではなく、文化財の修繕や保全など維持費に回される。 「それはそれ、これはこれ! 神聖な神社を金もうけの道具にすることなど許されることではない!」とご立腹の人も多いだろうが、そうやって怒っているだけでは、日本の神社が衰退するだけだ。 先ほど2040年までに、3万8000の神社が消えていく恐れがあることを述べた。なぜそんなことになるのかというと、日本人も消えていくからだ。2024年1月時点で1億2488万人だったわが国の人口は、2040年には約1200万人の日本人が消え、1億1284人となる。これがどれほどヤバいことか、ピンとこない人は九州7県で暮らしている人たちが全て消滅したとイメージしてもらうといいだろう。 しかも、残った日本人のうち35%は65歳以上だ。元気なシニアもいるが、多くは腰が曲がって神社の階段を上がるのにも苦労するような後期高齢者だ。そんな社会で、賽銭や祈祷料、神宮大麻の収益だけで、全国の神社を維持させることなど、できるわけがないではないか。それは今のような神社本庁を本部としたフランチャイズシステムに「崩壊」が訪れつつあるということでもある。