「授業をサボる大学生」だった私が「教授」になって思うこと 「人間が成長する」とはどういうことなのか?
■自分自身の「質的な変化」を感じ、それを肯定する 自分が生きてきたことの価値を信じられない人に、他者と対等な関係を築き、相手を尊重することができるだろうか。他者と数や量を競い合い、相手を蹴落とすことで確認される私の価値、それは他者の否定から成り立っており、他者尊重とは対極にあるものだ。 私の場合、そんな自分を知るための「点」の1つが古典だった。もちろん、古典がすべてではない。自分の原体験とも呼べるような「点」があれば、それといまの自分を比べることで、自分が生きた意味、過去からの変化、成長を知ることができる。
私たちは、生きることによって多くの価値と出会い、そこから何かを学び、変化を遂げ続けていく。 あえて難解な古典に挑むのもいい。苦い過去に思いを馳せながら、あのとき、ああしておけばよかったと頭を悩ませるのもいい。自分自身の「質的な変化」を感じ取り、それを肯定することだ。それが成長するということ、それが生きるということなのだ。
井手 英策 :慶應義塾大学経済学部教授