カスハラ対策に「ビジネスネーム」導入の動き ネット社会で情報漏れる実名勤務はリスクに
だが近年、少しずつその状況が変わりつつある。最大の要因はプライバシーへの配慮やカスタマーハラスメント対策だ。飲食店やホテルなどのコンサルティングを手掛けるディライティングオール社長のかずさん(ウェブ上でのビジネスネーム)はこう話す。 「私は長くホテル業界で仕事をしてきましたが、特に女性スタッフの名札を見て、インターネットで名前を検索するお客様がよくいるんです。少し前までは実名・公開でSNSを使うことも珍しくありませんでしたし、昔の部活の記録なんかも出てきたりする。次に会ったときに『昨日○○食べたんでしょ』とか、『昔陸上やっていたんだね』などと話しかけられるケースが珍しくありませんでした」 そして、それは働く人にとって大きなストレスにもなる。かずさんは続ける。 「従業員としてお客様と接する部分と、個人のプライバシーは全く別のものです。それなのに、お客様が自分の行動を知っている、見られているという感覚はとても怖いものですし、働く人の負担にもなっています」 かずさんがSNS上で発信した「実名で接客する必要があるのか」という問いには、多くの賛同のコメントが付いた。客の立場から考えても、目の前の従業員が本名とは別の仕事上の名前を名乗っていたとしても、不都合は全くないだろう。民事・刑事上のトラブルが発生した際のことを懸念する声もあるが、雇用側が本名を把握し、住所なども含めた身元確認をしていれば問題は生じにくい。かずさんがコンサルを手掛ける旅館でもオーナー主導でビジネスネームを導入した例があるが、トラブルはなく、従業員の働きやすさにつながっているという。 「旅館などの従業員には、DVやストーカーから逃れている方もいます。ネット社会の今、実名勤務は思わぬところから自分の情報が漏れてしまうリスクもある。経営層は実名勤務のリスクに無頓着なことが少なくありませんが、今の時代、接客業でのビジネスネームはもっと広まっていくべきだと思います」(かずさん)