W杯、白熱の得点王争いの行方
極め付きは体が伸び切った状態から、クロスの落ち際で頭を跳ね上げてシュートの軌道を巧みに浮かせた点だ。緩やかな弧を描きながらゴール右隅に吸い込まれていくボールを、一時代を築いてきた守護神カシージャスは見送ることしかできなかった。世界を唖然とさせたファン・ペルシーの一撃に、水沼氏も「他に形容する言葉が見つからない」と舌を巻く。 「あの距離からヘディングでシュートを打てる体の強さと。キーパーの頭を越すコースを狙ったセンスとテクニック。それらに尽きると思う。オランダはどこまで勝ち進めるかがわからない部分があったけれども、大会直前に4バックから5バックに変えたことが非常に奏功している。ツートップを組むロッベンの状態もすごくいいし、開幕前の低い下馬評通りにはいかないのではないだろうか」。 決勝トーナメントを勝ち進み、試合数が増えるほど得点王を獲得する確率も高まってくる。前回大会はミュラーとダビド・ビジャ(スペイン)、ウェズレイ・スナイデル(オランダ)、そして今シーズンからセレッソ大阪でプレーするディエゴ・フォルラン(ウルグアイ)の4人が5ゴールで並んだ。いずれもベスト4以上に進み、1大会におけるマックスである7試合を戦った国の選手たちだ。 その意味では、2ゴールをあげて2位グループにつける選手たちにも十分にチャンスはある。水沼氏は左ひざの半月板損傷から復帰したイングランド戦でいきなり2ゴールをあげたウルグアイのFWルイス・スアレス、開幕戦で同点&逆転弾を決めた開催国ブラジルのFWネイマール、そして2試合連続ゴールを決めているアルゼンチンのFWリオネル・メッシの南米勢にも注目している。 「スアレスの2点目は特に圧巻だった。キーパーからのロングキックのこぼれ球にトップスピードで走り込み、勢いを落とすことなく強烈なシュートを叩きこんだ。残念ながら、日本人にはなかなか真似のできないゴールだと言わざるを得ない。ゴールへの貪欲さもさることながら、キックの種類、ヘディングの上手さ、体の強さ、動き出しの巧みさなど、体に搭載されたありとあらゆるものを状況に応じて駆使して、ゴールに直結させられる点がスアレスの最大の武器と言える。メキシコとの第2戦では無得点に終わったネイマールだが、相手キーパーのファインセーブの前に2発は防がれていた。調子は悪くないし、十分に可能性はあると思う。そして、ひょっとすると、という存在なのがメッシ。過去2度のワールドカップであげたゴールはわずかひとつで、しかも前回の南アフリカ大会では無得点だった彼が、ボスニア・ヘルツェゴビナとの初戦でいきなりゴールを決めた。精神的にもかなり乗ってくるかもしれない」。