W杯、白熱の得点王争いの行方
4対0で圧勝したポルトガル戦で、ミュラーは前半12分にFWマリオ・ゲッツェが獲得したPKを決めて先制点をもたらすとエンジンを全開にさせる。前半のアディショナルタイムには、MFトニ・クロースのクロスをクリアしようとしたDFブルーノ・アウヴェスの死角から巧みに回り込んでブロック。目の前に転がってきたルーズボールを、反応鋭く左足で押し込んだ。 水沼氏も称賛する異能ぶりが発揮されたのは後半33分だった。右からFWアンドレ・シュールレがあげた低く速いクロスはGKルイ・パトリシオに横っ飛びで弾かれたが、こぼれ球はまたもゴール前に詰めていたミュラーの眼前に転がっていく。体勢を大きく崩し、最後は尻もちをつきながらも慌てずに右足をヒットさせて、ポルトガルに引導を渡す4点目を決めた。 ペナルティーエリア内における抜群のポジショニングと、どんな体勢からでもゴールを奪うプレースタイルから「爆撃機」と畏怖されたゲルト・ミュラーは、1970年のメキシコ大会で10ゴールをあげて得点王を獲得。1974年の自国開催大会ではオランダとの決勝戦で決勝ゴールを決めたが、得点王のタイトルは7ゴールをあげたグジェゴシ・ラトーに奪われている。やや気の早い話になるが、2大会連続で得点王を獲得すれば、バイエルンOBでもある爆撃機ミュラーはもちろんのこと、歴代のいかなる名ストライカーたちも成し遂げられなかった大記録が刻まれることになる。 ならば、対抗馬は誰になるのか。水沼氏はスペインとのグループリーグ初戦でアクロバティックな同点ゴールを決め、傾いていた流れを一気にオランダへ引き寄せた30歳のファン・ペルシーを「覚醒しつつある」と称賛する。「復活という表現がいいのかもしれない。マンチェスター・ユナイテッドでは故障が多く、昨シーズン終盤のプレーを見ていて大丈夫かなと思っていたけれども、ここにきて完全に調子が戻ってきている」。 王者スペインの歯車を狂わせ、オランダ戦における1対5の大敗、最終的にはグループリーグで姿を消す大波乱へとつながる序章となったスーパーゴールが生まれたのは前半44分だった。左MFのダレイ・ブリントが敵陣にわずかに入った地点から、ゴール前へ長いクロスを入れる。トップスピードで走り込んできたファン・ペルシーは、スペインGKイケル・カシージャスが前目にポジションを取っていることを瞬時に見極め、ペナルティーエリアに入ったあたりでダイビングヘッドを選択する。