為替相場を動かすのは政策金利差だけでない 長期的に円安トレンドが簡単にはなくならないと考える理由 崔真淑
GW前から、円が対アメリカドルで下落し、ドル円相場は1ドル=160円をつけました。そして、財務省と日本銀行による為替介入のためか、GW中には10円近くも円高に動き、1ドル=150円台前半へ向かいました。その影響で、為替に関するニュースが続いています。今回は、為替変動は私たちの生活にどう影響していくのか、その対策についても考察します。 興味深いことに、過去の為替に関する報道を振り返ると、「円高で日本経済への打撃が……」というニュースもあれば、「円安で日本経済への打撃が……」という声も聞きます。そして巷では、円安は国益である!という有識者の声もあれば、円高こそが国益!という声もあります。 ■円安は嬉しくない? どちらが正しいのでしょうか? 近年のデータを使った学術研究を、日本全体というマクロな視点で見ると、円安による日本経済への好影響が悪影響より勝るという見解が出ています。しかし、注目すべきなのは、その好影響が年々小さくなっているという指摘もあることです。背景には、家計に占める輸入品の割合が年々増加していることで、円安による家計を圧迫する影響が無視できなくなっているためです。実際、冷蔵庫にある食品や乾物などを見ると、海外原産のものが多くなっていませんか? また、電化製品や衣類も輸入品が多いですよね。そして忘れていけないのは、日本は電力・ガスなどのエネルギー資源の9割を輸入に頼っていること。食料自給率そのものも低下傾向ということです。生活者目線にたてば、円安は嬉しくないというのが正直なところでしょう。
とはいえ、加工貿易を得意としてきた日本にとって円安による好影響はまだ大きいのも事実です。円安によるメリットを受けやすい大企業が潤い、そこで働く人の給与もアップし、内需企業で働く人の給与もアップ、日本経済全体で潤う……という好循環が起きてくれたら、生活者目線としても円安ウェルカムになるでしょう。2024年はその正念場とも言われています。 ■多くの人が何と考えているか 私を含め多くの方は、どこまで円安が続くのか気になっていると思います。この予想をするためには、為替相場を動かす要因を整理する必要があります。報道の多くでは、日米の政策金利差の影響で、低金利の円の魅力が落ちて円安になると解説されることがあります。これは、半分正しくて、半分間違いだと思います。というのも、経済学における為替理論では、政策金利が下がって通貨安が起こることも、政策金利が低くても通貨高が起こりうることも示されています。実際、1ドル=75円時代を振り返ると、当時の日本の政策金利は、アメリカのそれに比べると低いにもかかわらず、超円高でした。短期の為替相場の予想で重要なのは、その時の為替相場を動かす要因を、多くの人が何と考えているかを予想することです。 政策金利を重視しているのか、それとも経済的なファンダメンタルなのか……。もちろん、これが簡単に分かれば、誰も苦労しませんし、私も仕事をしていません(笑)。なので、今は政策金利が意識されているかもしれませんが、全く違う要因が意識され始めたら、一気に円安に動いた反動で、1ドル=140円ぐらいまでの円高に進む可能性があるかもしれません。