松本人志の影響力を感じさせた令和ロマン、「うまい」より「好き」と言われるバッテリィズ 人間としての総合力を見る大会となった「M-1グランプリ」
「神回」と話題になった「M-1グランプリ2024」。初の連覇を成し遂げた令和ロマンに見る、「うまさ」以上に必要とされるものとは――。【冨士海ネコ/ライター】 【写真】スラリとしたプロポーションが「美しすぎる」と評判に…審査員・アンタ柴田の再婚相手 ***
「知力・体力・時の運」。「M-1グランプリ2024」は単なる漫才コンテストという枠を超え、人間としての総合力が試されるようになってきている。史上最多の10330組の頂点に立った令和ロマンは、まさにその三拍子がそろっていた。注目コンビは令和ロマン、と言った阿部一二三選手がトップバッターとして彼らの名前の書かれた笑神籤(えみくじ)を引いた時点で勝負はあったのかもしれない。 ボケ担当かつネタ作りも行う高比良くるまさんは分析家としても優れ、前後のコンビや会場の空気に合わせてネタの内容を調整するという。今回の連覇もまさに、M-1の審査を知り尽くした戦略勝ちといっても差しつかえないだろう。 今年は松本人志さん不在の審査員席も注目を集めたM-1。かまいたちの山内健司さんのほか、オードリー・若林正恭さん、アンタッチャブルの柴田英嗣さんといった非・大阪&非・吉本芸人の初選出も話題に。そんな今回の審査員全員に共通していたのは「爆発力」「暴れる」というワードが繰り返し出てきたことだ。昨年の決勝では令和ロマンに票を入れた理由を、松ちゃんは「1本目よりも2本目に強いのを残していた」と評した。しゃべくりとコント漫才というバリエーションと、1本目を上回る激しいリアクションと演技という、幅と奥行きで今年も他コンビを圧倒した令和ロマン。松ちゃんが支持した勝ち筋を、最も忠実に守ったからこその優勝だったのではないだろうか。
バッテリィズが証明した「うまい」より「好き」と言われることの強さ
一方、最も爪痕を残したコンビはバッテリィズだ。「アホの子に教える」体裁の漫才といえば錦鯉のスタイルとボケの長谷川雅紀さんの存在感がよぎるが、バッテリィズでもボケのエースさんが光っていた。おバカで元気で憎めない、少年ジャンプの主人公みたいなキャラは会場を一気に魅了。 審査員サイドも同じだったようで、まずMCの今田さんが「アホやなあエース、楽しそうやなあ」とねぎらうと、若林さんも「ワクワクするバカが現れた」とコメント。山内さんも「エースのバカな感じを開始15秒で気付かせて引きずりこんだ」、博多大吉さんは「長らく途絶えていたアホの漫才をよみがえらせた」と、とにかく「アホ」「バカ」という芸人として最大級の賛辞を全員から贈られていた。海原ともこさんの「小難しい漫才が多い中、ずーっとへらへらできる」とのコメントに、深くうなずいた視聴者も多かったに違いない。 お笑いを審査することは難しいといわれながらも、審査員の面々は緩急のつけ方やペース配分、構造の粗(あら)をきちんと指摘し、点数の理由を説明する。でも結局のところ、そうした技術のうまい下手を吹っ飛ばしてしまうほど、「好き」になれるお笑いかどうかというのは一番大きいのではないだろうか。 その「好き」を最も左右するのが、芸人からにじみ出る雰囲気や人間性なのだろう。こればっかりは努力や戦略ではどうにもならない。中川家の礼二さんが昨年大会で「存在感がある」と褒めたのは令和ロマンのくるまさんとヤーレンズの楢原さんだが、やはり今年もこの二人の「場の空気を変える力」は抜きん出ていた。ただし、くるまさんは今田さんから「全体的に偉そう!」とツッコまれ、ともこ姐さんや山田邦子さんからは「動かなさそうな人」と、ちょっと気取った人間に見えていたよう。ヤーレンズもまた「鼻につく」コンビという前振りをされている。決勝の「見せ算」で議論を呼んださや香も、不仲を公言していることもあって異様さが際立っていた。 対して今年、個人的には柴田さんの審査員コメントが印象に残っている。バッテリィズを「素直」、エバースを「優しさがにじみ出ている」と褒めていた。「爆発力」というとボケの手数やツッコミの勢いに目が行きがちだが、実力が伯仲する決勝において、「応援したい」と会場が後押ししたくなる大きなうねりを生み出せるかどうかは大きい。ネタ披露後も含めてのスケールの大きさというか、最後は本人たちの姿勢や人間性が大きく影響すると言いたかったのではないか。バッテリィズやエバースに、結果が出た今もSNS上でエールを送るコメントは絶えない。