投票率最低で自公圧勝の衆院選 再び注目の小選挙区制をどう考えるべきか 飯尾潤・政策研究大学院大学教授
「アベノミクス解散」は、自公連立与党の圧勝に終わり、安倍首相は、「国民の信を得た」として安保関連法制の整備を含めた懸案に取り組む。一方で、選挙の投票率が史上最低であったことを受け、「正当性は十分ではなく、白紙委任にしてはいけない」との指摘も根強い。 総選挙をめぐる評価は、現行の選挙制度にもおよび、「小選挙区は有権者と政界双方を不幸にする」(菅原琢『選択の苦痛、和らげる責務』朝日新聞 12月25日)や、小選挙区制は「気に入らない政策がセットに含まれていても、有権者はそれを購入せざるを得ない」(内山融『2014年の日本政治を振り返る』THE PAGE 12月28日)といった、小選挙区比例代表並立制についての批判的な声も聞かれるようになってきた。 これに対し、飯尾潤・政策研究大学院大学教授は、「選挙制度を論じる際は、民意の反映だけではなく、政権がどのように樹立されるかも考慮すべきだ」と主張する。飯尾教授に寄稿してもらった。 ------------ 熱気のない選挙なのに与党が「圧勝」したとか、小選挙区では48パーセントの得票で6パーセントの議席を確保するといったことが起こると、小選挙区制の「弊害」が話題になる。そもそも、小選挙区制度は、どのような選挙制度で、どのような経緯で導入されたのであろうか。
小選挙区制度とは?
小選挙区制度は、選挙区ごとに1人の当選者を出す制度である(小選挙区制に対立する概念は大選挙区制で、これは1つの選挙区から複数の当選者を出す制度である)。よく小選挙区は選挙区が狭いという誤解があるが、広さは関係ない。議席を小選挙区に配分するわけで、配分する議席数などの条件によって、広い小選挙区もありうるし、有権者が多い小選挙区もありうる。 現代日本では、1994年に政治改革の一環として、小選挙区比例代表並立制(小選挙区選挙と比例代表選挙を別々に行う制度)の一部として小選挙区制が導入された。この制度のもとで、既に7回の総選挙が実施されているが、最近の傾向では、勝った政党が巨大議席を占めることが多くなっている。これは、小選挙区において、勝った方がほとんどの議席を獲得するという現象が起こっているためである。 小選挙区制度は勝者総取り(一つの議席を勝った方が取ってしまう)なので、小選挙区制は、選挙結果を議席にするときに、勝者を大勝させ、敗者の勢力を小さくする効果がある。これを不公平だという考え方もできるが、政権をめぐる勝ち負けをはっきりさせる制度だともいえる。たとえば、リーグ戦のスポーツで勝ち点を計算するときに、10対1で勝っても、6対5で勝っても、勝ち点1と計算するのと同様の考え方である(この場合、負けた方の点を死点などとはいわないから、死票というのも変な表現である)。 また、議会での議決は基本的に過半数によるから、過半数を超える議席を持つ政権政党が決まれば、その政党が巨大議席を持っているかどうかで違いは少ない(ただし3分の2の加重多数議決に関する問題はある)ともいえよう。 これが不公平だと感じられるのは、議会は投票分布をそのまま反映するのがよいと考えるからである。この考え方に立てば、政党に対する得票数に応じて、各党の議席が決まるというのは比例代表制が望ましいということになる。 ただ、議院内閣制を取る場合、選挙制度の課題は、議席配分だけでは終わらない。議会(日本の場合は衆議院)は、政権を成立させ基盤となる機能があるからである。議会の多数派が行政権を行使するのが議院内閣制だから、政権政党がどうなるかが選挙制度によって影響されるのである。 小選挙区制は、かなり強引に多数政党を作り出すので、選挙の時に政権を担う政党を選ぶという機会を与えやすい。小選挙区制のもとでは、積極的か消極的かは別として、相対的に政権を担うのにふさわしいと判断された政党が過半数を取れれば、まずは選挙の目的は達せられたと考えるのである。