世界的なEVシフトが進むのに、日独の自動車メーカーが「大規模リストラ」を行う根本理由
中国・米国は増加、日本は低迷
国際エネルギー機関(IEA)は2024年10月16日に「2024年版エネルギーアウトルック」を発表し、4月に公表した「2024年版グローバルEVアウトルック」で示したEV世界販売予測を上方修正した。特に、中国や新興国での販売が好調で、電気自動車(EV)販売比率は2023年の15%から2030年には45%、2035年には55%を超えると予測されている。 【画像】「えぇぇぇ!?」 これが電動車の「世界推移」です! 画像で見る(12枚) 2024年1月から9月までの地域別EV販売比率は、欧州(14.7%)や日本(1.6%)で前年を下回る傾向にある一方で、中国(23.1%)や米国(8.0%)は前年を上回るペースで販売が進んでいる。 日本やドイツでは、EV需要の減速により生産能力が余剰となり、その結果リストラが広がり、雇用問題が深刻化している。世界的にEVシフトが進むなか、伝統的な自動車産業の変革は避けられないが、なぜ大規模なリストラが発生しているのだろうか。 本稿では、日本とドイツの事例を通して、EVシフトが雇用に与える影響やリストラ問題を掘り下げ、自動車産業の未来を考察する。
EV需要減速、欧州5万人削減
日本経済新聞は2024年11月26日に「欧州自動車5万人削減」として、欧州自動車産業で進行中の人員削減を報じた。特にドイツでは、フォルクスワーゲンが3万人規模のリストラを実施するほか、ゼットエフ、ボッシュ、シェフラーなどの部品メーカーも数千人規模の削減を見込んでいる。 ドイツでは、2023年12月にEV購入補助金が終了したことに加え、ロシアからの天然ガス供給停止にともなう電気代の高騰がEV需要減少を引き起こした。2024年1月から10月にかけて、ドイツ国内のEV販売は前年より約3割減少している。 EV振興策に乗じて、フォルクスワーゲンやBMWは多額の資金を研究開発に投じ、生産能力を増強してきたが、需要の減速により生産過剰に陥っている。フォルクスワーゲンは2029年までの雇用保障契約を破棄し、経営効率化を目指した構造改革を進めている。背景には、EVはエンジン車と比べて部品点数が少なく、ギガキャスト技術の導入により生産工程が簡素化されるため、従来技術の必要性が低下する現実がある。 世界最大の自動車部品メーカー、ボッシュは、EVシフトによる部品需要減少や自動運転支援システムの低迷を理由に、ドイツ国内で5500人の削減と1万人に対する労働時間短縮を発表した。このように、EVシフトが進むなかで、ドイツ国内では雇用問題が社会全体に広がっている。 日本の自動車メーカーも同様に、EVシフトによる変革が迫られている。日産自動車は厳しい経営環境のなか、グローバルで9000人の人員削減を発表した。米国やタイでの1000人規模のリストラが具体化し、グローバル生産能力は2割減の400万台程度に見込まれている。 このように一部の自動車メーカーは、EV向けの新しい生産体制への移行を進める一方で、雇用縮小が進んでいる。自動車部品メーカーも、EV用部品への対応が遅れると企業存続が危ぶまれる状況に直面している。 日本とドイツでは労働市場に違いがあり、日本では長期雇用が前提となっているためリストラは比較的少ない傾向がある。しかし、EVシフトによるコスト削減と経営効率化の波は日本にも影響を与え、今後雇用構造の変化を避けることは難しいだろう。